第217話 対決⑨ 

 俺が魔術を放つべく構えると同時、魔物は大きく飛び上がった。

 ビームを放ちながらそんなに器用に動き回るんじゃない、とは思うものの。

 俺だって、無策で魔術を放とうとしているわけじゃない。

 長時間周囲からマナを奪い続けながら準備したこの魔術は、ただ高威力の魔術を直線的に放つわけではないのだ。


 寧ろ、威力なんてものはある程度のところで頭打ちになる。

 俺がチャージに時間をかけたのは、その頭打ちになった威力を絶対に魔物へぶち当てるためだ。

 故に俺は、杖を後ろに引いて、構えを取る。

 炎はその後を追って弧を描いた。

 魔物の顔が、一瞬驚愕に揺れた気がしたが、構わず奴はビームを放った。


「焔よ……! 断ち切れ……!」


 そして、俺は炎を刃の形に変化させる。

 杖の先に、刃が生まれる。

 さながら炎の槍だ。

 といっても、俺は槍を扱ったことがないのだが。

 それでも、ただ前に刃を突き出すだけなら十分だ。


 結果、迫りくるビームを俺は――炎の槍で叩き切った。


”――――!!!!”


 魔物の咆哮。

 まさか、必殺技とでも言うべきビームを、一刀両断されるとは思わなかっただろう。

 だが、あのビームの利点は放つことのできる状況であれば、どこからでも放てるという点。

 予備動作も少なく、不意をつくという意味では最適だ。

 変わりに威力は、中級魔術の上級化による身体強化と、王族が扱う特別な剣だけで受け切ることができる程度。

 ここまでマナで威力を高めた炎なら、両断は用意だ。


 威力は頭打ちになると先程は言ったが、それが弱いとは俺は一言も言っていない。

 むしろ、その威力はあの魔物を一撃で倒すには十分なほどのはず。


 そして魔物は、空中から凄まじい速度で落下を始める。

 奴が飛び上がったのは、落下のスピードを攻撃に利用するためでもあっただろう。

 ただビームを両断しただけでこの攻防は終わらない。

 そして、落下の速度は凄まじく、下りてくるのを魔術で狙い撃つことはできないだろう。


 とすれば、ここからはじゃんけんの時間だ。

 落下する魔物が、俺に直接攻撃することを選ぶか、はたまた俺の近くに落下して不意をつくか。

 対する俺は、魔物が俺に対して落下することを選ぶと推測し、迎え撃つか否か。

 俺の選択は――


 大きく横っ飛びして、魔物が落下する位置から離れることだった。


 そんなじゃんけんにわざわざ乗っかる必要はない。

 乗っかったらヤツの思うがままだ。

 魔物が地面に着弾する。

 凄まじい勢いに地面がえぐれ、破片が飛び散る。

 正面から受けたら、いささか危険だろう。

 だが構わない、俺はその破片を炎の魔術で焼き払いながら、魔物へ突っ込んでいく。

 正面から、最高速で。

 着地直後の隙を狙って、魔物に魔術を至近距離で叩き込むために。


 魔物は動けない、隙が生まれている。

 後は、俺がこの魔術を奴にぶち当てればそれで終わりだ。

 そう、考えた瞬間。



 魔物が、ビームをこちらに放ってきた。

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