第207話 変革②
「クソ! クソクソクソ!!」
もがくグオリエ、もはや先程までの狂気に満ちた姿は見られない。
結局のところ、グオリエの素はあの歪んだ粗暴な性格の方が近かったのだろう。
狂信しているグオリエは、いうなれば自分に酔っているだけ。
正気に戻ってしまえば、俺達のよく知るグオリエと何ら変わりはないのである。
対して、グオリエを通して呪本との適合が解除できれば、それは大きな変革になる。
もちろん、呪本の適合者はその歪んだ性格ゆえに多くのものを傷つける。
それによって、赦されるような資格を得られないこともあるだろう。
だが、早期に適合が発覚し、まだ踏みとどまれる場所に適合者がいれば。
それを救うという選択肢も見えてくる。
そのキッカケが、十年ものあいだ呪本の適合者であることを隠してきた例外中の例外とも言える適合者、グオリエであるというのはある種の皮肉か。
「ヤメロヤメロヤメロ! ボクはコノトキの……タメに! スベテをササゲタ! イノチも、ネガイも、スベテだ! ソレを、オマエがフミニジルのか……ハイム!!」
「……確かに、貴方の一生はかわいそうなものかも知れない。呪本に適合しなかったら、もっと普通の生活が送れたのかも知れない」
グオリエの叫び。
それに応えたのはフィーアだった。
視線を向けると、少しだけ睨むようにしながら、グオリエを正面から見据えている。
「結果として誰も殺さずに、全て自分で背負おうとすることは、尊い自己犠牲なのかもしれない」
「ナラバ……!」
「でも、呪本は適合する人間の元にしか現れない。適合者は、本人もそれを望んでるんだ。その時点で、貴方の行動は全て貴方の為のものでしかない」
「……!」
そもそも、本来の適合者が暴走することで他者に討たれる存在だったのに対し。
それを抑えて自分をフィーアに捧げる選択をした時点で、グオリエは自分の意志で生き方を選んでいる。
そうなればグオリエは被害者ではない……加害者だ。
「そして貴方は、自分の願いのために多くの人に迷惑をかけた。その罪は、死じゃなくて生きることで償うべきものでしょ」
「ステラフィア……!」
「何も、死ぬことないじゃん。生きれるならさ!」
それが、フィーアの考えだった。
グオリエはフィーアにとって許せない存在だ。
でも、ヤツのしたことはフィーアにとって、何も死ぬことはない行為だった。
迷惑をかけた、狂信によって呪本の暴走に打ち克った。
良くも悪くも、死んで償うようなことではない、と。
「だから私は、助けるよ。貴方を……グオリエ・バファルスキ! 貴方のことは大っきらいだけど! 救われて、私の知らないところで幸せになれ!」
――それが、誰にでも優しく、グオリエにすら慈悲を見せる。
グオリエが狂信した少女の、答えだった。
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