第206話 変革①

 俺達の狙いは単純だ。

 グオリエが見出した――本人はそんなつもり一切ないだろうが――可能性を追求すること。

 そのためには、グオリエの”願い”を踏みにじらないと行けない。


 だが、その願いはフィーアに殺されることで記録に残りたいという身勝手なもの。 

 そのために、ホーキンスや騎士団の人々、多くの者に迷惑をかけて。

 もちろん、呪本に適合してしまった以上、グオリエが救われることはない。

 だから、呪本に適合した上で被害を出さなかったというプラスに免じて、かろうじてその願いは叶えることが許されるもの。


 しかし、救われる可能性が生まれたら?

 グオリエと呪本を引き剥がすことができるかもしれないとしたら?

 その願いは、妥当性を失うだろう。


「バカな……デキルワケがナイ!」

「そうだな、これまで人類は呪本の適合者を救うことができなかった。それは紛れもない事実だ。だがグオリエ、お前は一つ勘違いをしてないか?」

「……ナニがダ」

。周囲に多くの被害を出し、災厄としか言えない存在となった。だから、これまで呪本の適合者を呪本から引き剥がすことは、んだ」


 つまり、たとえ救える可能性があったとしても。

 それを追求する理由がなかった。

 だが、今回は違う。

 グオリエは誰も殺さなかった。

 ある程度意識がはっきりしているから、殺す必要がなかったというのもあるだろうが。

 殺してしまったら、自分ののぞみであるフィーアによる討伐が叶えられないかも知れないから。


「結果として、それが仇になったな。今のお前には、救われるだけの価値がある」

「フザケルナ! フザケルナフザケルナフザケルナ!!」


 言いながら、グオリエは暴れようとする。

 だが、突き刺された剣と、魔法陣がそれを許さない。

 やつは今、身動きが取れない状況にあった。


「……ッグ!」

「できるわけがないと言ったな、グオリエ。だがそれを否定するのはお前の行動だ」

「ソンナこと……アリエナイ!」

「有り得るんだよ、お前がことで、十年の間呪本の影響を受けなかった。その事実が、俺達にある可能性を示している」


 グオリエは、十年前に記憶を消した。

 呪本の存在を忘れ、いずれその呪いが解放されるのを待った。

 結果、その間グオリエは呪本の影響を受けず、性格こそ粗暴に歪んでしまったものの、人として普通に生きることができていたのである。


 つまり、



「呪本の適合は、記憶に結びついている可能性が高い。記憶――呪本に関する記憶だけを消去すれば、呪本との適合が解除される可能性がある」



 今から、それを試すのだ。

 グオリエという絶好の実験体を使って――全てはお前が初めたことだ、理不尽だと恨んでくれるなよ?

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