第205話 会敵⑥

 グオリエの狙い。

 それはフィーアに討たれることだ。

 それ自体は既に解りきっていることなのだけど、グオリエがどうしてそうしようとしているのか。

 フィーアに討たれることに、何のメリットがあるのか。

 そのことは、はっきり言って推測するしかなかった。


 けど、ある時俺達は一つの考えが浮かんだ。

 グオリエがフィーアの中に一生残るものを残そうと思った時、もっとも単純な方法はなにか、と。

 それは単純な考えだ。

 グオリエにとってフィーアが特別な存在なら。

 そんな存在の、絶対に消せないなにかになろうと考えるのは、果たして不思議なことだろうか。

 答えは、否である。


 故に考えた、グオリエはフィーアとどうなりたい?

 恋人になる?

 絶対に拭えない傷になる?

 相容れることのない敵になる?

 そのどれもが、必ずしも成功する保証のないものだ。


 けれども、呪本を手にした時。

 彼は一つだけ、確実な方法を思いついたのだ。

 それこそが――



こと。グオリエ、お前は呪本に適合し、フィーアに討たれたという記録に残すことを望んだんだな」



 記録に残る。

 言ってしまえば単純なことだ。

 呪本の適合者が現れるというのは、それはもう随分なことで。

 それを討伐したとなれば、当然歴史に名が残る。

 そうなれば、フィーアがグオリエに”殉教した”という事実は永遠に残り続けるのだ。


 それが、俺達の考えたグオリエがなぜ、フィーアに討たれることにこだわるかの理由だった。

 結局、推測であることに変わりはないんじゃないかって?

 問題ない、こうしてその事を口にした時点で。


「……フザケルナ!」


 グオリエ自身が、その答えを教えてくれる。


「キロクにノコル……ナニがワルイ!? ボクは、ネガイを、カナエル! ステラフィアは……レキシに、ナを……ノコス。ダレモ……フコウに……ナラナイ、ジャナイカ!」


 答えは、是。

 彼の叫びは、確かにその通りだ。

 グオリエが命を捧げるのも、フィーアがそれによって歴史に名を残すのも。

 決して、誰かを不幸にすることじゃない。

 それがグオリエの願いなら、叶えてしまうのもなしではない。


「だが――グオリエ。お前はその本懐を遂げるために、多くの人に迷惑をかけてきたよな? なのに自分の願いだけを叶えて死のうなんていうのは、少し虫が良すぎると思わないか?」

「……ダトシテモ、ボクはスデに……ノロワレテイル……! モウ、スクワレル……コトは、ナイ!」


 ああ、それは確かに。

 グオリエがこうして、死による救いで本懐を遂げようとしているのは、ソレ以外に方法がないからだ。

 呪本に適合してしまった者は救われない。

 その前提がアレばこそ、ギリギリグオリエの願いは、叶えるに値する願いとなるのいだ。


 ――だから。


「だが、そうはいかない」

「……ナニが、イイタイ」

「グオリエ、お前はお前の行動で、を作ってしまったんだよ」


 もしも、適合者を呪本から救い出せるとしたら、どうか。

 これまで、一度として呪本と適合者を引き剥がせた例はない。

 だが、ここに。

 救われる可能性が生まれてしまったら。



「だから俺達は、その可能性を試さなきゃいけない。人類として、救えるかもしれない命を救うという正しい行動をするために。お前の願いをぞ、グオリエ」



 グオリエの身勝手は、応報されるべき因果へと変わるのだ。

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