第204話 会敵⑤

 フィーアは、剣を突き刺した。

 グオリエの――脚に。


『……ッ! ナンのツモリだ……!』


 驚きに顔を歪めるグオリエは、痛みを感じていないように見える。

 痛覚がないのか、はたまた痛みを感じないようにできるのか。

 ともあれ、フィーアは驚くグオリエを無視して、こちらに呼びかける。


『――今だよ、ハイムくん!』


 その言葉が聞こえるよりも早く、俺は既に動いていた。

 一息でフィーアとグオリエがいる場所までたどり着くと、フィーアが突き刺した剣に手をかける。


「――! ハイム! キサマァ! ナニをシテイル!」

「よう、グオリエ。何をするも何も、見ての通りだよ」


 俺がそう言いながら魔術を展開すると、グオリエを中心に光があふれる。

 それは魔術を行使するための陣、魔法陣となって俺の魔術発動を助けるのだ。


「ジャマだ! ココはボクとステラフィアの……シンセイな、ギシキのバ! キサマのデル……マクは……ない!」

「悪いがそういうわけには行かない、俺はフィーアの彼氏なんだ。フィーアが困っていたら、それを助けるのが俺の役目なんだよ」

「……キサマァ!!」


 鋭い怒りが、グオリエから向けられる。

 奴は俺がここにいるということ事態が耐えられないのだろう。

 憎悪と憤怒を綯い交ぜにした感情が、ありありと見て取れる。

 しかし俺は、ここから退くわけには行かない。


「……ソモソモ、ナニをシテイルと……キイテイル!」

「その質問に答える前に……グオリエ、お前が答えろ」


 そう言って、俺は剣にマナを送り込みながら、問う。


「お前は、本気でフィーアに命を捧げるつもりだったんだな」

「ソレが……ドウシタ」

「さっきまでのフィーアとのやり取りを見て確信したんだよ、お前は本気で命を捧げて信仰に報いるつもりだった……と」


 というよりも、先程グオリエ相手にフィーアが話をしようとしたのは、それを確認するためだ。

 方法は簡単、自然な流れで剣をグオリエに突き刺すだけ。

 グオリエが本気で命を捧げるつもりなら、決して逃げることはしないだろう。


 そして剣を突き刺した結果、グオリエは本気で死ぬつもりなのだと俺達は判断した。


「アァソウダ……ボクのシンコウに……イツワリは……ナイ! ヨウヤク……ソレを、ショウメイ……デキル、ハズ……ダッタ。ナノニ……オマエが……!」

「そうだな、そしてお前が殉教する理由は――フィーアに自分自身を刻み込むためだ」

「――――ナニ?」


 俺は、端的に言う。


「グオリエ、お前の狙いは全部解ってるんだよ。お前が殉教するのは、決して誰かのためとか、呪本をどうにかするためじゃない」


 それは、ある種の答え合わせだった。

 ここまで、俺達を誘導して来たグオリエ。

 その、真の狙いを詳らかにする。



「全部、お前自身が自分の欲望を満たすためにしていることだ」



 その、最初の一手だった。

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