第203話 会敵④

『ハハハハハハハハハ! ヤハリ! ヤハリ……ステラフィアは……メガミ……ダ! テンのシホウ……ダ!』


 グオリエの狂ったような笑いは、そのまま奴の演説へと以降する。

 大げさに両手を広げ、神への感謝を示すかのようなポーズで、奴は笑いながら叫ぶのだ。


『ボクのヨウナ……オワッテ……シマッタ、カイブツ……ニ! スクイをクダサル!! ステラフィアは……ボクにスクイを……モタラス!!』


 歪んでいる、狂っている。

 その言葉は支離滅裂で、果たして本当に同じ人間の話す言葉なのだろうか。

 それでも、なんとか。

 想像できる余地は、生まれた。


 やはりグオリエはステラフィアを”信仰”していたのだ。

 そしてここに現れたのは、救いを求めてのこと。

 その方法は、やはり一つしかないのだろう。


『グオリエ……私は貴方を理解できない。周りに締め付けられて、心が内向きになってしまうのは悲しいことだと思う。でも、そこから他人に対する信仰心で救いを求めようとする気持ちは、一生理解できないと思う』

『アア……アア……ステラフィア、ソノ……コトバを……チョクセツ、ボクに、ツタエル……ダケでも、アナタは……リッパだ』

『そう思うならどうして! ……いい、貴方と関わってきて、私達が解りあえたことは一度もなかった。だから、もういい』


 グオリエと言葉を交わす中で、フィーアは色々と思うところがあるだろう。

 だが、もはやことここに至ってそれをぶつけようとは思わない。

 フィーア自身が、それを諦めてしまったからだ。


 こうなってしまったら、もはやフィーアがやるべきことは一つである。

 グオリエを終わらせる、しきりに何度もそう言葉にしてきた彼女は、身につけていた剣を抜く。

 そしてそれを、グオリエに対して突きつけた。


『貴方は死を望んでる。あの本が、私達に情報を与えようとするこれまでの行動が、それを指し示してる。なら、望み通り私がここで終わらせる。終わらせて……あげる』

『……!』


 グオリエは、フィーアの言葉に何も言わなかった。

 ただ、一瞬目を見開いたような動作を見せただけ。

 それでも、確かに変化は合った。

 ……ここからだ。

 


『何か、言い残すことはない?』

『……ナイ。ボクは、カミのクニ……ヘト……ムカウ……のデス。モハヤ……クイ……ナド』

『……そう』


 グオリエは、そう言って。

 最後まで抵抗する様子を見せなかった。

 跪くようにして、向けられた剣を待っている。

 フィーアに殺されることを心から望んで、その刃を受け入れようとしている。


『…………なら』


 一瞬だけ。

 フィーアは、ちらりとこちらを見た……ような気がした。

 距離的に、それが確かであることを確認することはできないけれど。

 それでも確かに……そうした気がしたのだ。


 だから俺は、心のなかだけで答える。

 この状況で、彼女に意志を伝える方法がなかったから。


 ――やろう。


 ……と。

 それを、果たしてフィーアは受け取っただろうか。

 一瞬だけ、なにかに頷くような仕草を見せて、フィーアは……


 跪くグオリエに。

 ――手にした剣を、突き刺した。

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