第202話 会敵③

 グオリエとフィーアが相対している。

 一人になったフィーアの元に現れたグオリエは、祈りを捧げるようにフィーアを見た。

 ここからでは表情まではよくわからないが、距離を置いてもなおフィーアの嫌そうな雰囲気が伝わってくる。 

 多分、めちゃくちゃ顔を引きつらせているんだろうな。


『ちょっと……やめてよ! 私は貴方に祈りを捧げられるようなことをした覚えはない』

『アナタに、ナクトモ、ボクは……コウ、シタカッタ、ノダ』

『だったらなおのことやめて! 私のことを信仰してるなら、私の嫌がることはしないでよ!』

『……?』


 叫ぶフィーアに対し、グオリエは心底不思議そうな顔をする。

 それは、あきらかに。

 話の通じない奴の顔だった。


『ボクは、スデに、シンコウを……ササゲタ。モウ、イヤガルヨウな、コトは……ナイ』

『何を言ってるのか解らないよ! アナタのことが理解できない!』

『コマッタな……ドウシテ、キョゼツ……サレルか……ワカラナイ』


 驚くべきことに、何一つ会話が噛み合っていなかった。

 グオリエが何を言っているのか、俺にもフィーアにも、この会話を聞いている誰にも解らないだろう。

 呪本によって歪められた精神とは、ここまで人とは違う何かに人を変貌させてしまうものなのか?

 前回俺とホーキンス殿の前に現れたグオリエは、まだ話しができる状態だったのに。

 今のこれは……完全に狂人のそれだ。


『……もういい! ここに現れた以上、アナタにも要求があるはずだよグオリエ!』

『ヨウキュウ……ボクが……』

『そうだよ! あの本を読んだ、アナタがアレをどうしてあそこに隠したのか私には解らないけど、あの本を用意したってことはアナタが……呪本をどうにかしようって思ってたってことでしょ!?』


 あの本には、グオリエの真実が書かれていた。

 奴が呪本によって歪む前に記した、奴の今の状況が。

 そしてそれを読んだフィーアは考えたわけだ。

 あの本を用意した以上、グオリエは自分を止めてほしかったのだ……と。


 ただ、こうして眼の前に完全に狂ってしまったグオリエが現れたことで、その意思は揺らいでしまっているけれど。


 それでも、フィーアはフィーアだ。

 誰にでも優しく、平等に接する。

 グオリエが自分を止めて欲しいと願っているなら。

 その願いを、叶えることだって厭わない。

 そういう少女だ、フィーアは。


『ドウニカ? ドウ……ニカ……ドウニカ……スル』


 対するグオリエは、考え込むような素振りを見せた。

 そして、


『……ハハ』


 どういうわけか、奴は、


『ハハハハハ……ハハハハハハハ! ハハハハハハハハハ!!』


 笑みを、浮かべていた。

 狂ったように、笑い転げていた。

 

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