第201話 会敵②

 結界に意図的な穴を作り、フィーアをそこに”配置”した。

 グオリエの狙いがフィーアである以上、グオリエは必ず現れる。

 その前提の元、俺達はあらゆる作戦を立てた。

 しかし、穴を開けてから数分。


 ――グオリエが、姿を見せることはなかった。


「……こないね」

「……こないな」


 それって、とてもまずいのでは?

 いやいやそんなことはない。

 寧ろこうなることは想定内で、どうしてグオリエが姿を見せないのかも理由は解っている。


 俺がいるからだ。

 グオリエにとって、俺は目の上のたんこぶ。

 愛する人との逢瀬に、愛する人の恋人なんて無粋も無粋。

 とてもではないが、俺がいたら奴は出てこれないだろう。


 だから、それはいい。

 正直俺としてはこの場を離れたくないが、離れよう。

 作戦も、ここでグオリエは出てこないものとして立てられている。


「……じゃあ、俺は一度ここを離れる。くれぐれも、気を付けてくれよ」

「大丈夫だよ。私だって強いんだもん。グオリエなんてグーだよグー」

「ははは、そりゃ心強い」


 お互いに、努めて軽く言葉を躱して。

 俺は身体強化魔術を使ってその場を離れた。

 一気に移動して、所定の位置につく。

 そこは、修練場を一望することのできるスポットだ。

 魔術によって、フィーアの周辺の音を拾うようにしているので、会話を聞くこともできる。

 そして何より、いつグオリエが現れても、問題ないように構えられる場所だ。

 仮にグオリエがフィーアにおかしなことをしようとしても、一瞬で駆けつけることができる。


 ともあれ、そこにたどり着いた俺は、改めてグオリエが現れるのを待った。

 フィーアは変わらず俺が開けた穴の中にいる。

 あの穴を開ける魔術、使えるのが俺かフィオルディア陛下しかいなかったんだよな。

 そりゃ、結界に穴を開けるなんてだいそれたこと、そうそうできたら困るんだけど。


 そうこうしているうちに、その時は来た。

 フィーアの周辺の、マナの動きがおかしい。

 少しずつ形を得ているかのような、普通ではありえない動き。

 奴が現れたのだと、端的に語っていた。



『……フィーア』



 魔術越しに、声がする。

 グオリエ・バファルスキ。

 俺達にとっての宿敵、因縁の相手だ。


『グオリエ! 姿を見せなさい!』


 フィーアが叫ぶ。

 リンとした声、魔術越しだからというのもあるが、あまり聞かないタイプの声音だ。

 倒すべき敵対者に向けられた声、といったところか。


『アア、ヨウヤク……ヨウヤクだ。オレは……ボクは……』

『……』

『アナタに……シンコウをササゲル……コトが……デキル。ステラフィア……サマ』


 現れたグオリエの様子は、これまでと違っていた。

 信仰者。

 もしくは、狂信者。

 ステラフィア・マギパステルに全てを捧げた、愚かな殉教者が、そこにいた。

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