第200話 会敵①

 そして、作戦決行の夜がやってきた。

 ホーキンス殿の尽力により、作戦に必要な準備は全て手はず通りに用意することができた。

 俺はといえばその間、身体を休めていただけ。

 そりゃあ、前段階である作戦立案に関わったとはいえ、やることは山のようにあるだろうに。

 ホーキンス殿に休むよう言われた以上、休むしかない。


 まぁ、一番のんびりしているのはフィーアなんだけど。

 彼女も特にすることはなかったので、一日自室で待機していたのだけど。

 本人曰く、


「私、1日中何もせずにゴロゴロするのって初めて!」


 とのことだった。

 1日中ゴロゴロすることを、ここまで目を輝かせて報告する人間は初めて見た。


 ともあれ、今は夜、俺達がいるのは学園だ。

 元々、この時間になれば人なんてほとんどいないが、今日に限っては騎士団が人払いしているので、本当に人っ子一人誰もいない。


 いるのは俺とフィーア、それからこの作戦に参加する者だけだ。


「……いよいよだね」

「ああ、準備はいいか?」

「もちろん!」


 そして、そんな俺達がいるのは修練場。

 かつてグオリエと決闘した、あの場所である。

 ラーゲンディア殿下との決闘もここでやったから、何かと因縁が集まる場所だ。

 まぁ、広くて戦いやすいというのは大きい。

 ここならどれだけ暴れても、被害は出にくいからな。


「他の人達も、皆準備はできたみたいだ」

「よーし、やったるぞー!」


 おー、と手を振り上げて気合をいれるフィーア。

 対する俺も、周りからの合図を確認してから準備に入る。

 地面に手を当てて、意識を集中させるのだ。


「……」

「……」


 この瞬間は、かなり集中しなくてはならないためフィーアも声をかけてきたりはしない。

 沈黙だけが広がって、やがて俺は、魔術を一つ発動させる。


「結び目よ……綻べ!」



 途端、俺とフィーアの周囲に”円”が生まれた。



 それは目に見えるものではない。

 俺達の周囲に発生した、俺達を囲む円。

 フィーアを中心に、結構な広さになった。


「よし、できた。ここからはがいつ現れるかわからない! 気を引き締めていくぞ!」

「うん!」


 そうやってフィーアに声をかけ、俺は意識を集中させる。

 いつ、がこの場に現れてもいいように。

 何が起こっても、フィーアを守れるように。


 ――さて、そろそろ俺が何をしているのか、説明するべきだろう。

 一言でいうと、俺は結界に穴を開けているのだ。


 結界、結界石によって作られた魔物を寄せ付けないエリア。

 学園は大きな結界石により魔物――グオリエが近づけないようになっている。

 そこに、小さな穴を作る。

 その穴の中では結界の効力が薄まるのだ。

 つまり、今さきほど俺が作った穴の中に、グオリエは姿を表すことができる。

 そして、そこにはフィーアがいる。

 故に、こういうことだ。



 この作戦の骨子、それはフィーアを囮にすることにこそある。

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