第193話 変質⑥

「それ……どこまで信用できるデス?」

「さてね」


 もしも、この内容が真実だとしたら。

 グオリエはとんでもない狂信者だ。

 信仰心だけで、呪本の衝動から抜け出すなんて。

 ありえなさすぎて、逆にあり得る気すらしてくるくらいだ。


「とりあえず、ある程度信用できる情報もある。グオリエの呪本の能力だ」

「マナに溶け込むことができる能力……デスね」


 ノートによると、その能力はマナに身体を溶け込ませるだけではないらしい。

 まず、マナに溶け込んだ身体は自由に切り離すことができる。

 腕だけ出現させずに、後ろから突然腕が出現する……なんてこともできるみたいだ。

 厄介なのはそれだけじゃない。

 ノートをマナに溶け込ませることができたように、グオリエは自分以外もマナに溶け込ませることができる。

 一番厄介なのは、魔術だ。

 魔術は元々マナの塊、マナに溶け込ませてもその指向性は変わらない。


 のである。

 ただでさえ夜、影の中にしか出現しないというのに。

 粗暴だったグオリエは上級魔術しか使えなかったが、マナを体内に宿したグオリエがどこまで魔術を使えるか解らないのも厄介だ。

 このノートは幼い頃に書かれたものだから、今のグオリエがどうなっているかまでは解らない。


「そしてもう一つ、グオリエは呪本の事を忘れることで、呪本の衝動に抗ってきた。けど、奴が暮らす中で感じるストレスは、変わらず呪本の衝動に転換されるだろうと書いてある」

「呪本は負の感情に反応するわけデスから、負の感情が強くなればなるほど、その能力が強くなるのは不思議じゃないデスね」


 つまり、グオリエは今一種の爆弾と化しているのだ。

 蓄積された負の感情によって、呪本の力はどんどん増してきている。

 これは凶暴化した適合者がどんどん厄介になっていく状況に似ている。

 グオリエのノートにもそれは書かれていたが、この記述に関してはおそらく正しいだろう。


「そうなると、グオリエが信仰心で衝動を抑えているという事実に信憑性が生まれてしまうんだが……」

「どちらにせよ、今のところあいつの行動で死者はでてマセンからね……これは呪本の事件としてはあまりにも異例なのは間違いないデス」


 俺達は、それをなんとかしなくてはならない。

 グオリエの凶行をこれ以上見過ごすわけには行かないのだから。


 そんな時である。


「……グオリエの言ってることが、全部本当だとは思わないけど」


 不意に、フィーアが。

 それまで何か考え事をしている様子だった彼女が、口を開いた。


「あいつの信仰心は……本当だと思う」


 そう、俺達に告げたのである。

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