第194話 準備①

「グオリエの信仰心が本物……? どういうことだ?」

「えっとね……昔のグオリエのコンプレックスと、変わる前の私のコンプレックスは……同じだと思うんだ」


 フィーアは言う。

 自分がグオリエなら、果たしてどう感じるだろうか。

 そう考えてみたのだと。


「私だったら……もし周りが厳しくて、殻に閉じこもるしかない環境だったら……辛いと思う。それって、普通のことだよね?」

「まぁ……そうだろうな。想像するしかないが……そうやって周囲の環境のせいでどんどん性格がマイナスに寄っていくってのは普通のことだろう」


 正直、俺はかなり環境にも恵まれている人間だから、想像するしかない。

 カミア皇女もそうだ。

 グオリエの、周囲の環境で歪んでいった経緯は、きっと同じように内向的だったフィーアにしか理解できない。


「そのうえで、自分と同じなのに周りに恵まれている人間を見たら……どう思う?」

「んー、妬ましいと感じるんじゃないデスか? それを信仰心につなげるなんて、普通じゃないデスよ」

「そうだね、普通じゃない。でも、普通じゃないくらい妬ましく感じて……それを自分の中で処理できなくなったら、こう考えるんじゃないかな」


 グオリエは普通じゃない。

 普通に考えたらダメなのだ。

 だから、思考を極端に傾けようと、フィーアは言っている。



「その人が恵まれてるのは、その人が神の使いだから……って」



 皮肉にもそれはフィーアが――ステラフィアが、国民から「天の至宝」と称される状況に一致する。

 まぁ、ステラフィア王女がそう呼ばれるようになったのは、前向きになって周囲に愛想よくし始めたからだろうが。


「もし、グオリエみたいに追い込まれたら……そう考える。その考えに、共感はできないけど……理解はできちゃったんだ、私」

「フィーア……グオリエに同情してないデスよね?」

「してない……けど、責任はあると思う。グオリエがこうなった原因が、私の変化にあるのなら」


 その瞳は、どこまでも透き通るようにまっすぐで。

 フィーアの決意の固さが知れる。


「……呪本に適合した適合者を助けることができないのなら」


 そうして、俺とカミア皇女を見る。

 それは助けを求める視線だ。

 俺達に、協力して欲しいと訴えかけている。

 だが、それだけではない。

 既にフィーアは決めているのだ。



「グオリエの狂信を、終わらせなくちゃいけないんだ」



 王女ステラフィアとして。

 グオリエとの因縁に決着をつけるため、グオリエの狂信を――そして、をおらわせるのだ……と。

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