第191話 変質④

「これは……? まさか呪本じゃないよね?」

「流石にそれはないと思うが……念の為、俺が確認する。二人は少し離れていてくれ」


 万が一が起きた時、姫様二人を巻き込んだと合っては俺も耐えきれない。

 呪本の可能性は万が一に一つもないだろうが、警戒するに越したことはなかった。

 とはいえ、見た感じ古ぼけたノートのようだ。

 もう何年も前の……今は、使われている形跡がないノート。


「気を付けてくだサイ」

「承知している、皇女」


 二人の視線に頷くことで返し、俺はノートを開いた。

 中に書かれていたのは――


「これは……」


 少なくとも、これが呪本ということはないようだ。

 だが、書いてある内容は少し信じ難いもの。


「読むの早いデスね」

「ハイムくんは、本の虫だから」


 普段から読書に耽っている俺にとっては、この程度の速読はなんてことないのだけど。

 ともあれ、数分でノートを読み切って、要点をまとめる。

 心配そうにこちらを見る二人へ、大丈夫だと笑みを浮かべた。


「ノートの内容は……記録のようだ」

「記録? 日記じゃなくて?」


 ああ、と頷く。

 ノートは見た感じ日記帳として使われるごくごく普通のもののように見える。

 中身は確かに、起きた出来事を書き記している。

 だが、日記というにはあまりにも客観的すぎる内容だった。


 序文の書き出しは、こうだ。


『この本は、僕自身に今後何かしらの問題が発生し、自分が呪本を所有していることを場合に備えて記す。

 そうなった場合、僕は真っ先に呪本の能力で隠されたこの本に気付くはずだ。

 もしそうなった場合。

 ただちにこの本を読み、僕の使命を思い出すこと』


 となっている。

 個人的に気になるのは、二つ。


「あいつ、昔は自分のことを僕って呼んでたんだ」

「引っ込み思案だったなら、不思議じゃないだろう」


 そうそう無いとは思うが、この「僕」がグオリエでなかった場合。

 とはいえ、それはこの本の筆跡をホーキンス殿に確認してもらえばわかる。


 もう一つは、今のグオリエが、俺達にこの本へたどり着くよう誘導したのではないかという点。

 そうなった場合、この最初の記述とグオリエの行動が矛盾する。

 果たして今のグオリエが何を考えているのか、このノートを読んでも俺には理解することができなかった。


 ともあれ。


「結局、この本には何が書いてあるデスか?」

「呪本に適合した経緯と、その効果の詳細。それから――グオリエがなぜ粗暴に振る舞うようになったのか」


 いよいよ、俺達は核心へとたどり着いたのだ。

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