第190話 変質③

 グオリエの呪本の能力。

 今のところはっきりしたことは言えないが、推測することはできる。

 マナの中に身を隠す能力。

 もしくは、マナに能力だ。


 どちらにせよ、自身の身体を霧散させることができるのは間違いない。

 厄介な能力だが、こうは考えられないだろうか。


「霧散できるのが、自分だけじゃなかったらどうだ?」

「まさか……呪本とか?」

「呪本は、そもそも適合した場合、適合者と一体化してるからここにあるってことはないだろう」


 あるとしたら、それはグオリエが残した手がかりだ。

 ヤツの行動には俺達を誘導する意図が見られた。

 だとしたら、ヤツの思惑どおり誘導の結果、手がかりをえることもあるかも知れない。


「……それって、つまり罠じゃない?」

「そうだな。でも、教えようとしている以上何かしらの意味があるのは間違いない」


 別に、その情報が無意味でも構わない。

 罠だって問題ない、現状は少しでも情報が欲しいのだ。

 情報の精査は、こっちでやれば問題ないのだから。


「そもそも、どうやってマナの中に溶け込んだ何かを引きずり出すデスか? 勢い余ってグオリエが飛び出してきたりとかは……」

「それは問題ないはずだ。理由は幾つかあるんだが――」


 言いながら、杖を構える。

 大気からマナを吸収し、ある魔術を行使するのだ。


「夜闇よ、天蓋を覆え」

「……上級闇魔術デスか?」


 俺が講師した魔術は、即座に周囲から光を奪っていく。

 すでにもう時刻は夕刻を過ぎていて、外も月明かりがあたりを照らす時間に差し掛かっているのだが。

 結果として、一気に室内は暗くなった。


「まず、寮は学園の近くだから結界石の降嫁でグオリエは近づけない」

「そもそも近づけたら、隠したものを回収してるはずだしね」


 フィーアが補足する。

 どうやらフィーアは、これから俺が何をするか既に理解しているようだ。

 対するカミア皇女はそうではない。

 このあたりは、魔術に対する造詣の違いというところだろう。

 皇女にとって魔術は武器でしかないからな。


「次に、マナの中に何かが溶け込んでいるなら――引きずり出せば言い」

「……引きずり出す、デスか?」

「そう。マナは魔術を行使したら一時的に枯渇したりするでしょ? だからこうやって、室内のマナを魔術で枯渇させるんだ」


 フィーアが補足する間に、俺は再び闇魔術を行使する。

 ちなみに闇魔術なのは、グオリエが影に覆われているからだな。

 アレは、呪本のマナが闇に近いからだと俺は考えているが――


 ともあれ、マナを一時的に枯渇させる。

 すると、俺の手の上に――あるものが出現した。


 魔術の効果を解除して、室内の光をもとに戻す。

 すると――


 手の上には、一冊のノートが収まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る