第189話 変質②

 カミア皇女の口利きがあったからか、スムーズに寮の中へ入ることができた。

 グオリエの部屋は、魔導学園では普通途中で退学になることは殆どないため、今も空室のままになっている。


 借りた鍵を使って、中に入る。

 少しの緊張、俺達は顔を見合わせてから中に入った。

 本来ならカミア皇女とフィーアはこの場に踏み込むべきではないのだろうが、俺はグオリエの”変質”について何もしらない。

 もしもこの場に、その理由が眠っているとして。

 二人にしか解らないこともあるだろうと思ったのだ。

 当然、ホーキンス殿から許可はもらっている。


「……何も無いね」

「そりゃあ、荷物は全部運び出されてるだろうしな」


 寮の中は、備え付けの机とベッド以外はなにもなかった。

 少なくとも、普通に探して何かがでてくるということはなさそうだ。


「机の中も……何も無いね」

「ベッドの下も……そうだな」

「いかがわしい本とかあったりしないデスか?」

「あっても困る」


 フィーアに執着する部分以外の、グオリエのそういう面なんて絶対に見たくないぞ。

 出てきたらドン引きするだろうに、それはそれって感じで興味を示すんじゃない!

 仮にも皇女なのだから!


「可能性としては……机の引き出しに仕掛けがあるとか?」

「一応、そういうのは騎士団の人たちが調べたと思うデスが……」

「軽く見た感じ、そういうのもなさそうだな」


 とにかく、待っていたのはなんというか、何も無い普通の空室だった。

 三人がかりで色々と探してみるものの、特にこれといって見つかったものはない。

 三十分、探すべきところはあらかた探したと思う。


「……見つからないねぇ」

「そりゃあ、騎士団や侍従が探しても見つからなかったものだ。普通の方法では見つからないんだろうが……」

「グオリエのくせに、テクニカルな隠し方してたら許さないデス」


 とはいえ、これは考える必要があるだろう。

 まず、ここに来ることがそもそも空振りだった場合。

 それはあまり考えたくない。

 現状、他に手がかりがないのだ。

 それに、俺達はグオリエの手がかりを元にここまでたどり着いた。

 ヤツの言葉を再び思い出した時――


「……俺達には、絶対に解らない」

「グオリエが言ってたやつ?」

「ああ、少し考えたんだ。それがこの場で意味のある言葉にするためにはどうすればいいか」


 グオリエは明らかにアレに複数のメッセージを乗せている。

 それがこの場所でも意味を持つなら。


「……手がかりは、普通なら絶対に解らない方法で隠してある?」

「何か思いついたデスか?」


 皇女の言葉に頷く。

 普通なら解らない。

 それはたとえば、解らないと考えたら――どうなるだろう。

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