第186話 憎悪⑥
ホーキンス殿の執務室を後にする。
すると、そこには意外な人物がいた。
「待ってたデス、二人共」
「……皇女?」
カミア皇女だ。
いつも通りの学生服姿で、言葉通り俺達を待っていたのだろう。
壁に寄りかかっていた。
そこから離れて、こちらに近づいてくる。
「カミア? どうしたの、こんなところで」
「二人に会いたかったデス。ホーキンス様とお話していたデスね?」
「う、うん」
皇女は、そう言って困惑するフィーアに笑いかける。
「なんていうか……カミアがここで待ってたら、通りがかった人びっくりするだろうね……」
「さっき、アタシに気付かず通り過ぎようとした侍従が別の侍従に引っ張られていきマシタ。こういうのはやはり楽しいデスね」
元々、学園では自由に歩き回っている皇女だ。
常習犯なんだろう、いたずらっぽい笑みにはいっそ貫禄すら感じられる。
「ともかく、私達に話って?」
「そうですねフィーア……いえ、ここではこう呼びましょう」
そう言って、カミア皇女は一礼する。
たしかこれは……帝国の正式な一礼だったか?
「ステラフィア」
「!!」
解りきったこととは言え、皇女がフィーアのことをステラフィアと呼ぶのはこれが初めてだろう。
驚いた様子でフィーアが目を丸くする。
しかし、個人的に気になるのはどうしてわざわざステラフィアの名で呼んだか、だ。
「皇女。いきなりどうしたので?」
「ハイム。こうして話をしにきたのは、グオリエの件に関してデス」
「……グオリエの?」
皇女から、その名が出るとは思わなかった。
なにせ、奴と皇女に繋がりは殆ど無いだろうからだ。
せいぜい剣術クラブで一悶着起こしたのだろうというくらい。
それに、皇女がフィーアをステラフィアと呼ぶことに繋がらない。
……いや、まさか。
「グオリエに関して、一つアタシも知っていることがあるデス」
「そうなの? ……社交界で面識があった?」
「挨拶はされマシタが、他の貴族と同程度の会話しかなかったデス。アタシとグオリエには殆ど面識なんてないデスよ」
「じゃあ……」
続きを促すフィーアに、皇女は難しい顔で言う。
「もっと、昔のことデス。ステラフィアの友人が、アタシしかいなかった頃」
「それって……フィーアが人見知りだったころか?」
「ン、よく知ってるデスね。流石にフィーアの彼氏なだけあるデス」
言いながら、少しだけ目を細める皇女。
……ヤキモチを焼いている?
まぁ、今は突っ込まないでおこう。
「でも、その頃の私とグオリエが、どこでつながるの? 私、その頃にグオリエと話したことないよ?」
「――見てたデス」
え? と二人でオウム返しをする。
「あの頃、グオリエは時折遠くから、ステラフィアを見てたデス。……ステラフィアは、気付いてなかったデスが」
その一言に、俺とフィーアは一瞬理解が追いつかなかった。
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