第185話 憎悪⑤

「じゃあ、ホーキンスさんの考えるグオリエって、どうして呪本に適合したと思うんですか?」

「そうですね……グオリエは粗暴になりましたが、その本質は変わっていないのだと思うのです」


 本質。

 すなわち、臆病で内気な性格。

 アレのどこが内気なのかは解らないが。

 解らないように振る舞っていた……というなら、理解できなくはない。


「ですが、どうしてそう考えるのだろう?」

「グオリエは……僕に嫉妬の感情を見せたことがないからです。僕に対しては、あくまで尊敬できる兄として接してくれていた」

「でも、嫉妬はしてたんだよね」

「ええ、王女様。彼の尊敬の裏にある嫉妬は、確かに感じ取ることができていましたから」


 それは彼が隠していたのではなく。

 表に出す勇気がなかっただけ。

 そういうことだろう。


「それで、ハイムくんには遠慮なくその嫉妬を顕にしてたわけだ」

「棘の言い方を為さりますね、王女。まぁ、言い訳のしようはありませんが」


 だからこそ、フィーアは気に入らないのだろう。

 まるで俺に当てつけているかのようだからな。


「結論から言って、グオリエは粗暴に振る舞ってこそいましたが、その本音を口に出すことはしてこなかった。溜め込んでいたのだと、考えています」

「であれば……凶暴化するのが普通なのでしょうが」

「溜め込んだとはいっても、大半は粗暴に振る舞うことで発散できていたはずです。グオリエが溜め込んでいたのは……もっと黒く、淀んだ感情」


 それは、言葉で表現することなどできないのだろう。

 人が抱える感情は、多くの言葉で表現できる。

 だが、それはあくまで一面だけのもの。

 すべての感情を、1つの言葉で表すことは到底できない。

 それでも、敢えて名付けるとするなら――


「……憎悪」


 フィーアが、ぽつりとそうつぶやく。

 視線を向けると、自分でもなぜその単語が出てきたか解らないという様子である。


「フィーア?」

「……ううん、なんでもない。不思議と、そう表現するのが一番適当な気がして」

「でもまぁ、そうですね。言葉にすると陳腐ですが、確かにグオリエは憎悪しているのでしょう」

「……それは、何に?」


 俺が問う。

 すると、ホーキンス殿は首を横に振った。


「そこまでは、残念ながら。ですが、グオリエの憎悪が何なのか。それを調べてみるのが良策かと思います」

「ありがとう、ホーキンスさん。何かわかったらまた」

「ええ、こちらも引き続き調査を進めます」


 詳しいことまでは理解らなかったが――とりあえず、方針は定まった。

 次は、どこに話を聞きに行くべきだろう?

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