第182話 憎悪②

「アレ以来ハイムくんの前に姿を見せない……なんでぇ?」

「わからん。グオリエと遭遇した時、何と言うかマナの淀みのようなものを最初に感じた。人気がある時からだ。それもなかった」

「……それはつまり、グオリエに見られてるってこと?」

「そうだな」


 俺の前にグオリエが現れた時。

 はっきりとグオリエにつけられている感覚がした。

 それが、今では全く感じられない。


「考えられる理由として、グオリエは俺に何かしら伝えたいことがあったから現れたんだ」

「わざわざ目の前に現れたんだもんね」


 だからこそ、俺はグオリエから得ることのできた情報を吟味する必要があると思う。

 まずはグオリエの能力についてだ。


「グオリエは、マナの中を漂っていて、自由に姿を表したり消したりできるんだよね。どうして直接私の前に現れないの?」

「それに関してはすでに騎士団である程度予測が立っているんだ」

「っていうと?」

「結界石だよ」


 結界石。

 魔物を寄せ付けない結界を放つ石。

 どうやらグオリエもその影響を受けるようだ。

 グオリエがこれまで現れたのは、魔導王国の中でも結界石の効果が薄いところだそうで。


「学園と王城の下には、大きな結界石があるだろ?」

「それで、敷地内には入ってこれないんだ。じゃあ夜にしか姿を見せないのは?」

「それは完全な推測だが……影だから、じゃないかなぁ」


 つまり、影の濃い夜にしか形を保てない。

 昼の間は影が薄くなるから、出現することができないという話。


「今のところグオリエが、建造物の中に出現した例はない。寝る時に小さな魔導灯をつけておけば、それだけでヤツの出現は抑制できるかもな」

「案外、対策は簡単そうだねぇ」

「だが、奴は呪本の適合者だ。今はこれで十分でも、何れ大きな厄災を招く可能性は高い」


 どちらにせよ、グオリエの捕縛は急務であった。

 捕縛……そう考えて、思い出すことがある。

 先日のホーキンス殿の様子だ。


「……ホーキンス殿は、かなり”捕縛”に積極的なようだった」

「今のところ、グオリエが処刑されるほどの被害を出してないから?」

「呪本の適合さえ解除できれば、何も殺すことはないだろう。そう陛下に嘆願したいらしい」


 とはいえ、その解除がまず歴史的に一度として例のない行為なのだが。


「解除したところで、グオリエが元の生活に戻ることは無理だと思うけど」

「だとしても、だ。命さえ無事なら……そう考えてるんだろう。それに、解除すること自体には意味がある。呪本の原理を解明できるかもしれないからな」


 そうすれば長年続いてきた、呪本による災害を防げるかも知れない。

 そう考えると、グオリエを助けるという行動にも意味があるような気がするな?

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