第181話 憎悪①

 俺とホーキンス殿が憎い。

 グオリエはそういった。

 そうなった時、俺はあることを思い出していた。

 グオリエの一件が片付いた後の、フィーアとの会話だ。


『あいつの俺とフィーアに対する執着が、兄への嫉妬と尊敬の代償行為だった……かもしれない、か』


 それは、今まさにグオリエが俺とホーキンス殿を憎いといった理由へダイレクトに関わってくるものだ。

 俺達に嫉妬しているから、こうして俺達の前に現れた。

 そう考えると、色々辻褄が合う。


「大丈夫だったか? ハイムくん」

「問題なく」


 グオリエが完全に消失したことで、緊張を解いてある程度事務的な会話をする。

 先ほど、俺がグオリエと相対した時のことを、事細かに報告した。

 そのうえで、問うのだ。


「グオリエは、俺やホーキンス殿への嫉妬で呪本に適合した……ということでしょうか」

「……いや、そうでもないかもしれない」


 だが、ホーキンス殿から帰ってきた答えは以外なものだった。


「実は、君に提案される前、僕は一人で街の警備にあたったことがある。当然、グオリエをおびき寄せるためだ」

「……まさか、グオリエは現れなかった?」


 そうだ、とホーキンス殿は頷く。

 つまりグオリエは、ただの嫉妬で呪本に適合したわけではない。

 様々な理由が複合した結果であり、その中でホーキンス殿への嫉妬と憎悪はそこまで大きな比重ではないということだろう。


「つまり、僕にはなくて君にはある理由が、グオリエをここに呼び寄せた」

「……やはり、フィーアのことでしょうか」

「可能性は高いが……そうなるとなおのこと、フィーア嬢に対する執着が理由でないことの説明がつかない」


 グオリエはフィーアに執着している。

 だが、それは呪本に適合した理由とは関係ない。

 いや、関係はあるのかも知れないがその中でも理由は俺達への憎悪より比重が小さいのだろう。


「……俺には、絶対に解らない」

「グオリエは、確かにそういっていたのだったね?」

「ええ。明らかに、それには何かしらの意図がありそうです」


 ただ、奴が絶対に解らないとまで断言するのだ。

 この場で考えて解ることではないだろう。


「とにかく、今日はここまでにしよう。もう遅いし……調査なら、明日以降もできる」

「ええ、ではこれで失礼しても……?」

「構わない。君の行動はきちんと見守っていたし、報告も正確だったからね」


 そうやって、今日のところは解散となった。

 しかし、不思議なことに。

 グオリエはそれ以降、俺が夜に一人で街を歩いても出現することはなかった――

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