第175話 通り魔③

 それから、数日。

 俺はフィーアにあることを頼むと、いつも通りバイトに出勤していた。

 こんなときに……とは思うかも知れないが。

 こんなときだからこそ、行く意味があるのだ。

 それに、フィーアがアレからずっと出勤できていないので、それを心配する人達もいる。


 もともと週イチでしか出てこれないから、戦力的にはいたら嬉しいくらいで構えていてくれるからだろうが。

 一回の出勤でこれだけ心配する人が多いのも、フィーアの人徳だな。


「……というわけなので、今日は少し早く上がりたいと」

「ああ、構わないよ。流石にそれだけ危険だと、幾らハイムくんでも不安になるからね、こっちとしては」

「ありがとうございます」


 とりあえず工房の主人には、安全のため早めに上がると伝えた。

 俺のことを心配してくれると同時に、俺を魔術師として高く評価してくれる発言に感謝しかない。

 それだけでも、この工房でバイトをする価値があるというものだ。


「……それと、フィーア様をお願いしますね」

「…………はい」


 そういえば、主人はフィーア……というか王家とつながりがあるようだ。

 考えてみればこの工房は故郷の人の紹介だし、師匠とつながりがあっても不思議じゃない。

 それに難易度の高い筆記魔術が使える魔術師を、これだけ集められるのはコネと人徳がないと無理だ。

 そう考えれば、この工房がフィーアを貴族だとしても受け入れてくれたのは納得だな。


「お疲れ様です」

「あら、お疲れ様。今日もフィーアちゃんはこれないのね」

「ええ。流石にこれだけ色々騒ぎになってるのに、無理はさせられないから」

「学生も被害を受けたのでしょ? 大変よね」


 ……耳が早いな。

 その件は、学園ではまだ広まっていない話だ。

 数日が経って、おそらくある程度の目処はたったからこうして漏れ聞こえているのだろうけど。

 そこは実力のある魔術師ということか。

 少し考えて。


「……そのことは内密にお願いします」

「あら、やっぱりハイムくんが関わってたのね」


 やはり、ここの人たちはそこまで把握しているようだ。

 学園でも広がっていない話を、俺が知っているのはおかしい。

 そのうえで話を振ったのだろう。

 こういう試すような行為は、魔術師ならよくあることだ。


「気を付けてね、皆心配してるんだから」

「ああ、承知してる」

「……無茶はしないでちょうだい」


 そこまで言われると、本当に全部見透かされているのだなぁ、と思うほかない。

 何にしたって、とりあえず今は眼の前の作業に集中することにしよう。

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