第174話 通り魔②

 魔導学園の学生が襲われた。

 幸いなことに、死なずに済んだため魔導学園は醜聞を気にしてかその事を公表していない。


「まぁ、ある程度調整が済んだら発表するとは思うけど、流石に何の手回しもなく発表したら大問題になるだろうし……」


 とはフィーアの談。

 ともあれ、本題はそこではなく。

 学生の受けた被害がこれまでよりも酷かったというもの。


「これまでの被害者は、せいぜい壁に叩きつけられて何かを見定めるように観察された程度だったそうデス」

「それはそれで、結構問題なような……変質者じゃん」

「その変質者が、学園生に対してはより凶暴な執着を見せたというわけデス」


 なんでも、首を掴まれて締め上げられたとか。

 とはいえその程度なら、ちょっとした程度の差と言えなくもない。

 どちらにせよ死人は出ていないわけだから。


「それまでとの一番の違いは――そいつが、意味のある言葉を発したという点デス」

「意味のある言葉を……? そもそも、そいつは人間なのだろうか、魔物なのだろうか」

「わからないデス。黒い影のような人型の怪物……と聞いてマス」


 それを踏まえて考える。

 強いて言うなら、既存の魔物ということはないだろう。

 人間……というには黒い影というのがおかしい。


「やっぱり……呪本なのかな」

「呪本デスか。ディア……コホン、情報元もその可能性が高いと踏んでいマシタが」


 今なんて言った?

 カミア皇女の情報元は王太子殿下だったのか……

 まぁ、よくよく考えればお互い優秀な剣士で、普段から接点が多いのだろうが。

 というか、そうなるとカミア皇女にフィーアの事を話たのも殿下だな?


 まぁ、今はおいておこう。

 関係ない話だし。

 ちらりと視線をフィーアに向けると、似たようなことを考えていそうな顔と視線があった。

 やっぱカミア皇女がフィーアの正体を知ってることに、気付いてるな?


「ただそうなると、やはり凶暴化している様子もマナを取り込んでいる様子もないというのも変デス」

「……ちなみに、意味ある言葉をその時初めて発したそうだが、なんと言っていたんだ?」


 答えの出ない可能性は、一度置いておくしかない。

 俺は話を戻すことにした。


「――チガウ、だそうデス」

「……チガウ?」

「何かを探している、ということか?」


 そう言って、俺はフィーアを見る。

 もしもその黒い影がグオリエだとして。

 女性ばかり狙うなら、その狙いは間違いなくフィーアだ。


 フィーアは、不安そうに俺を見る。


「……大丈夫だ、俺は必ずフィーアを守る」

「……うん」


 そう言って、その不安を少しでも拭い去ろうとするのだった。


「…………イチャイチャが始まるなら、退散するデスが?」


 なお、横槍が入った。

 ごめん。

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