第173話 通り魔①
カミア皇女が、昼飯を手にこちらを見下ろしていた。
「あ、カミア! こんにちわ」
「どーもデス。二人を見かけて、イチャイチャしてる様子ではなかったのでご一緒させてもらおうかな、と」
「イチャイチャて……」
まぁ、確かにカップルの会話をしているところに入っていくのは気まずいけれども。
何にしても、皇女はフィーアが頷くのを見るとその隣に座った。
「お二人共、なにやら難しい顔をしているご様子デス」
「そうだねぇ……ここ最近、色々と張り詰めてて」
「”奴”のことデスか……心中お察しするデス」
グオリエの件は、ストラ教授だって知っている。
当然、カミアが知らないはずはない。
「カミアは、周りの人から何か聞いてない?」
「ンー、何も聞いてはいないデスが、夜に外へで無いよう言われてマスね。侍従をつけていても、デス」
「侍従をつけてても、かぁ。……まぁ、そもそもその侍従さんよりカミアの方が強いんだし普通かもだけど」
「乙女に何言ってるデス」
いや、乙女て……
この場にいる人間で、戦えない人間はいないぞ。
フィーアは、本気で戦ってるところ見たことないけど。
「個人的に、気をつけるべきはアタシ達ではなくハイムデスね」
「俺……?」
「ハイ、アタシ達は基本的に安全なところで暮らしてマスけど、ハイムは学園外のアパートデスから」
「まぁ、そう言われるとそうなのだが……」
安全なところ……基本的に、俺以外の学生は学園の隣にある寮で暮らしている。
そこは学園と目と鼻の先なので、王城と同程度には安全だ。
それはそれとして、フィーアに配慮して”安全なところ”と濁しているわけだが。
「というよりも――聞いていマスか? 例の通り魔事件」
「そりゃあまぁ……」
通り魔事件。
ここ最近、学園を賑わしているもう一つの事件だ。
マギパステル王都で発生している、女性を狙った襲撃事件。
幸いなことに死者は出ていないが、危険なことに変わりはない。
カミアが夜に外へ出ないよう言われている原因はこれもあるだろう。
「――昨日、学園生が襲われたそうデス」
「えっ!? 学園生が!?」
「それは……単純に学園生が迂闊だっただけでは?」
通り魔事件が問題になってるのに、外へうろつくことは大問題だ。
襲われたところで、それは自業自得だと思うのは無理もないこと。
「実際、その学生は好奇心から火遊びのつもりで夜の街を歩いていたそうなのデスが、なんでもこれまでのどの女性よりも被害が大きかったみたいデス」
「そんな……」
「ただ、亡くなってはいないので、今のところ学園でも大きな問題にはなっていないみたいデスが」
まぁ、死人が出ていたらこんなふうに呑気に昼食を食べていられないだろうしな。
「……少し、奇妙な点があるデス」
そういって、少し声を潜めてカミアは言った。
ここからは、一般には知られていない内容なのだろう。
他国の皇女が知っているのは、まぁどうかと思うんだが。
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