第170話 呪本③

「呪本……大枠の分類であれば、魔道具の一種だな。魔道具は基本ダンジョンから出土する貴重な代物だが……呪本は輪をかけてレアだ」

「何せ、突然どこからともなく”湧いて”くるんだものねぇ」


 そもそも魔道具というものが何か、という話。

 ダンジョンから出てくる、人が作ることのできない特別なアイテム。

 周囲のマナを取り込んで効果を発揮するという共通した特徴があり、それによって発生する効果は様々だ。


 代表的なもので言うと、前に話題に出た決闘用魔道具だろうか。

 メダルのような形をしており、それを砕くと決闘術式のになった結界を展開することができる。

 その結界内では、概ね決闘術式と同じ効果が発生するのだ。


 他にも有名なのは街の防衛に使われている結界石だろうか。

 地面に埋め込むことで周囲のある程度の範囲に魔物を寄せ付けない効果がある。

 別にそれがなくとも人類は生きて行けるが、一度埋め込めばその効果は永続するので、街の発展と結界石は切っても切れない関係だ。


 これらの特徴は、人間がその魔道具をコピーすることが現状できていないという点。

 決闘用魔道具なんかは、ダンジョンを歩けばひょいひょい見つかる程度の代物だが、同じものを人類が作れたためしはない。

 変わりに、それを模倣した魔術を使う。

 ようは、アイテムそのものはコピーできなくとも、アイテムと同じ効果を魔術で再現すればいいのだ。

 結局、マナを取り込んで効果を発揮するのは魔道具も魔術も変わらないのだから。


「うむ、魔道具の存在は人類の歴史の発展と密接に結びついておる。そもそも人類が魔術という文明の力を手に入れたのは、この魔道具を自分たちの手で再現するためだったのだからの」


 魔導考古学において、魔道具の存在は絶対に無視できない。

 ストラ教授の言う通り、そもそも魔術とは魔道具の再現から始まった技術なのだから。

 かつての人類は魔術の助けなく、魔道具と己の身体だけで魔物と渡り合っていた。


 なんともまぁ、すごい時代もあったものだ。

 そしてそんな人類を導いたものが、魔道具といえる。

 しかし、そんな魔道具にも光あれば影があり。

 その影の部分こそ、今話しをしている呪本だ。


「呪本。マナを取り込み効果を発揮することは、他の魔道具と変わらない。しかしどういうわけかその形は必ず本であり、効果は様々だが――人類に害なす代物であるということは共通している」

「うむ……そして、呪本最大の問題は――突如としてどこからともなく現れるという点だの」


 それも、呪本の力で他人を傷つけたいと思うような者の前に現れる。

 俺はその時、ある一人の男の顔を思い出していた。

 グオリエ、まさかお前は呪本にのか――?

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