第169話 呪本②
「なんともまぁ、前回の講義の幸せそうな空気が見る影もないの」
「むっすううううう」
「言われてからむすっとしてどうする、フィーア」
ストラ教授の言葉に、フィーアがむすっとし始める。
ここ最近は不満ばかり貯まっているものの、基本的には持ち前の明るさで前向きに生活を送っているフィーア。
言われなければ、別に不満を表に出したりはしない。
とはいえ、教授は一ヶ月に一度しか俺達と顔を合わせない。
だからこそ、こういった変化には気づきやすいのだろうか。
「教授! あれから教授のお手伝いをキッカケにバイトを始めたのですが! 結局グオリエのせいで一度しかいけてません!」
「ほほほ、アヤツも大概問題のある男だの」
そういえば、グオリエのことはいつの間にか学園で噂になっていた。
まぁ失踪というのはただごとではないし、そのせいで大々的に騎士団も動き回っている。
噂というのは存在すれば絶対に広がるものだ。
こればかりは、俺達にはどうしようもない。
「しかしそれでは、お主たちも中々その噂のせいで息苦しいのではないか?」
「いや、そっちはそうでもないんだ教授。グオリエと俺の決闘の件は有名だけど、相変わらず俺個人の知名度はさっぱりだからな」
「強いて言うなら剣術クラブではすっかり有名人だけど、だからこそ皆気を使ってくれますしね」
だからまぁ、俺達の関心事はグオリエへの警戒だけに絞られている。
そうでなかったら、そもそも学園になんて通っていられないだろう。
グオリエとの決闘の件だけでも、学園の注目を集めるには十分なんだから。
「聞いていた通りだの」
「? 誰にですか?」
「おっと、独り言だ。気にするでない」
はぁ、とフィーアが首を傾げる。
まぁ突っ込んでものらりくらりと交わされる部分だろう、気にしてもしょうがない。
「さて、講義の時間は限られておる。いくらこの場に要るのが我々だけだからとて、雑談に興じているわけにはいかん」
「はーい、解りました」
いそいそと講義を始める教授。
といっても、この雑談を踏まえても講義の進みは問題ない程度には、教授の教え方は巧い。
これでもし、一ヶ月に一度しか講義ができないのではなく、マイナーな学問以外も教えていれば間違いなく学園一の人気教師になっていただろうに。
ともあれ、そこを気にしていてもしょうがない。
「では、今日扱う内容は、”呪本”に関するものだ。二人も、この講義を受けるような酔狂さがあるなら、一度は聞いたことがあるだろう」
呪本。
……そうか、ここ最近の授業の進みからして、そろそろ魔導考古学でそれについて取り扱うにはちょうどいい時期が来たのだ。
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