第168話 呪本①

 グオリエが失踪した。

 なんでも、グオリエはアレからバファルスキ家のとある別荘に軟禁されていたらしい。

 父親いわく、頭を冷やせとのこと。


 そんなグオリエを世話していた従者いわく、最初のウチはひどく荒れていたらしい。

 従者にもきつく当たり、何人も仕事をやめていったとか。

 やがて、それは落ち着いたものの。

 今度はわけのわからないことをつぶやいている時が増えたそうで。

 気味悪がってグオリエの父にも相談しようとした矢先のことだったらしい。


 忽然と、グオリエは消えていたそうだ。

 部屋に荒らされた形跡はなく、ただ窓が壊されていた。

 しかし不自然なことがある。

 グオリエの自室は別荘の三階にあったそうだ。

 怪我もなく地面に着地するには、身体強化魔術か風魔術が必要になる。

 ようは、逃げ出した形跡が必ず生まれるのだ。

 だがそれがなかった。


 本当にただ、跡も残さず消えてしまったらしい。

 窓をぶち破った以上、逃げ出したことだけは間違いない。

 けれどもそれ以外の手がかりは何もなく。

 最終的に、視察という名目で学園にも調査の手を向けることになったようだ。


 俺達がその話をされたのは、逃げ出したグオリエが俺達を狙う可能性があるから。

 まったくもって冗談ではないが、奴にとって俺とフィーアが執着の対象になるのは自然なことなので警戒する他はない。


 そう言われて、しばらくは俺もフィーアもかなり夜道等には気を付けていたのだが――



 何も起きることなく、半月と少しが経った。



 俺達の警戒はなんだったんだという話だが。

 グオリエがいまだ見つかっていない以上、警戒しないわけにも行かない。

 とはいえ、基本的に気をつけるべきは無防備な夜の道だ。

 フィーアの活動範囲は概ね学園と王城に偏っているし、登下校さえ気をつければそれ以外は比較的安全な場所にいることができる。


 もしもフィーアをグオリエが狙ったとして。

 そもそも学園と王城では、フィーアにたどり着く前に別の誰かがグオリエに気がつくだろう。

 それ以外の場所では、俺がフィーアを守ればいいだけのことだ。


 まぁ、流石にリスクを負うわけにはいかないので、バイトはアレ以来通えていないが。

 フィーア自身、かなりそれを不満に感じていても、立場上文句は言えないのであった。

 他には、登下校を図書館経由にしたり。

 街の散策をしないようにしたり。

 それなりに安全を確保しながら、日常を送っている。


 そうして、今日は一ヶ月ぶりのストラ教授の講義だった。

 前回、教授にお手伝いを頼まれてから、もう一ヶ月が経過していたのである。

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