7.過去
第167話 夜闇
一人の少女が襲われていた。
すでに夜も暗くなっており、辺りに人気はない。
助けを求めようにも、求める相手がいないのだ。
こんなことならば、夜に街を歩かなければよかった。
魔導学園の学生である少女は、当然ながら貴族だ。
しかし、貴族としての格は低い。
普段から、息苦しい学生生活を送っていた。
そんな彼女が、夜に街へ出かけるというある種の火遊びを思いつくのは時間の問題だった。
なに、別に治安の悪い場所に足を運ぶつもりはない。
ただ少し、夜の街を歩くという特別感に浸りたかっただけ。
それなのに今はどうだ?
ふいに、人気のないところで何か気配を感じた。
慌てて逃げ出した少女だったが、相手の気配はどんどん近づいてくる。
自分を追いかけてきている上に、少女よりも脚が速いのだ。
こんなことなら、身体強化魔術をもっと真面目に学んでいればよかった。
あんな野蛮な魔術、貴族の子女が学ぶものではないと適当に済ませていなければ。
まだ、助かる目はあったかもしれないのに。
そもそも夜に外へ出かけること自体がバカだったのだ。
友人たちは、この火遊びを怖がっていた。
彼女たちが臆病だからだと、少女は内心バカにしていたけれど。
おろかだったのは、自分の方だったわけだ。
やがて、少女は袋小路に迷い込む。
行き場を失い、壁にもたれかかって顔を恐怖に歪めた。
気配はどんどん近づいてくる。
何者かもわからない何かが、少女を追いかけてやってくる。
「いや……こないで……!」
声は、しかしか細く。
他者に少女の居場所を教える力はない。
そして――
それは、現れた。
夜闇に紛れているというのもあるが、どうにもそれは影のように思える。
人の形をした影だ。
二足歩行の獣……もしくは魔獣。
そういうイメージを抱かせる、黒色のシルエット。
顔はわからない、視線は確かに感じるのに、顔の輪郭を捉えることができない。
ただ一つ、それが怪物であるということだけは理解できた。
そしてその怪物が、少女めがけて突っ込んでくる。
「ぎゃっ……!」
悲鳴は、痛みによるものか、恐怖によるものか。
どちらにせよ、少女は首を捕まれ壁に叩きつけられる。
心臓が恐怖で嫌になるくらい跳ね上がる中、怪物はしばらく少女を観察していた。
「ィ……ァ」
「あ……に……いって」
息が苦しくなる中、少女は怪物の言葉が理解できず問い返す。
すると、怪物は少女を地面に放り捨てた。
「――チガウ」
まるで、興味を失ったかのように。
後には、首を始め、幾つかの場所に怪我を負った少女が一人、残されるのだった。
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