第163話 過去③
「――あの時、私は自分を変えてくれるものが欲しかったんだと思う」
フィーアは、ぽつりとそんなことを口にする。
それは、彼女が不満をいだいているものに対する願望だったのだろう。
「私の環境は、はっきり言って恵まれてた。平和で、周りの人も優しくて。なのに、自分が自分で妾の子だからって、周りに遠慮してたの」
「今のフィーアからは考えられない、正反対だな。……正反対だからこそ、か」
「変わったからこその今、だからね」
当時のフィーアは、恵まれている立場ではあったものの、引っ込み思案な正確から他人との交流がなかったという。
唯一の交流がカミア皇女。
たぶん、同年代だったことと、カミア皇女がフィーアを気にかけようと思ったこと。
そして何より、他国の皇女ということで、普段は交流がなかったことが良かったのだろう。
普段から交流があったら、きっとフィーアの方が遠慮してしまったはずだ。
「そういう意味で、お母様のしようとしたこともなんとなく解る。普段とは違う環境で、遠慮しないでいい相手との関係性を築いてほしかったんだね」
「そうして交友関係を築いたのが、当時の俺……か」
なんとなく、覚えがあるような……ないような。
当時の俺は、それこそ彼女と同じく周りとあまり交流を持つタイプではなかった。
ただ、それは一人でいるのが好きだったからで、別に遠慮があったわけではない。
それに完全に一人だったわけではない。
傭兵団は共同体だったから、家事とかの手伝いを子どもたちが皆でやったりする。
その中では、比較的積極的に手伝いをする方だった。
それもあってか、比較的そういう日常的なことでは頼られる立場だった。
まぁ、面倒事を押し付けられているとも言えたが。
ただそれはこっちとしてもそれはメリットのある行為だった。
面倒事を押し付けられているうちは、一人でいても孤立することはない。
ようは、面倒事を片付けることで、人付き合いという面倒を免除されていたわけだ。
話を戻すと。
そういう希薄な人付き合いの中に、フィーアのような少女が関わってきたとして。
印象に残るとは思うのだが……
覚えていないのは、それがあまりに短い期間だったからだろう。
けど、引っ掛かりがないわけではない。
だから俺は、フィーアに訪ねた。
「その時、俺とフィーアは何をしたんだ?」
「んーと、私の記憶によると……」
そう言って、あやふやなものの中から、なんとかフィーアは"それ”を引っ張り出して。
「二人で……魔術を学んだんだと思う、それが、私が魔術に初めて触れた瞬間だたかな?」
――そう、聞いた時。
俺の中でもいくつかのピースが、かちりとハマる音がした。
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