第160話 師匠③
「――君とフィーアの交際を、俺も正式に認めよう」
「はい」
「お兄様!」
「……この先は、困難が二人を待ち受けているだろう。それでも、その未来が素晴らしものであることを願う」
決闘は終わった。
俺が勝てば、ラーゲンディア殿下は俺とフィーアのことを認める。
まだ、公にできることではないけれど。
殿下の公認と後押しを得られたことは、とてもありがたいことだ。
「それに、こうして剣を振るったことで私も思ったのだ」
「……それは?」
「――ハイムは、ぜひとも私の描く国の未来図に欲しい」
「!!」
その言葉に、思わず息を呑む。
まさか殿下に、ここまで評価して貰えるとは思わなかったのだ。
望外の喜び、というべきか。
恐れ多い、とも感じる。
「君の魔術の才能は素晴らしいものだ。父上がいる今は、父上の威光が君の功績をかき消してしまうだろう」
「……」
「だが、私の時代は違う。父が王位を退き、私がその跡を継いだ時。ぜひ、君には魔術師のトップとして国を導いて欲しい」
「そ、そこまでの期待を……」
それと同時に、殿下にそうして引き立てて貰えるのであれば、俺はフィーアとともに歩く未来を進むこともできる。
俺にとっても、その提案はメリットしかないものだ。
とはいえ、それには多くの障害がある。
平民である俺は、その立場に就くために、実力で周囲を納得させなければならないのだ。
「何より父上も楽しみにしているだろうからな」
「……と、いうと?」
「自分に並ぶ魔術師など、まさか自分の生きているうちに出てくるとは思わなかっただろうからな、父上は」
俺にとって、陛下は雲の上の人だ。
尊敬すべき遠い存在。
しかし陛下にとっては違うのだろう。
あの方にとって俺は、初めて正面から魔術の討論ができる相手になるのかもしれない。
……もしかしたら、陛下が俺とフィーアの交際を認めた一番の理由はこれなのか?
「では、ハイム。今は精進に励むといい。何れ――ともに同じ未来を歩めることを祈っている」
「……は!」
そう言って、殿下は俺達に背を向ける。
その姿に思わず俺は臣下の礼を取り、頭を下げていた。
「では、さらばだ」
そうして、殿下は去っていった。
すでに薄暗くなった校内に、沈黙が満ちる。
あまりにも激動の一日だった。
というか、殿下と決闘することになって、しかも勝ってしまうだなんて思わなかった。
自分でも、信じられないことだ。
――そういえば、先程からフィーアが言葉を発していないな?
まさか、殿下に別れの言葉すらないとは。
そう思って、視線を向ける。
そこには――
――今までにないほど真剣な顔で、何かを考え込むフィーアがそこにいた。
これは、たしかに。
殿下も邪魔をせず去っていくだろうと、思ってしまうほどに。
見たことのない顔で、フィーアは考え事をしていた。
「ハイムくん」
「……何だ?」
そして、考えがまとまったのだろう。
視線を上げて、彼女は伝える。
「私、――昔、ハイムくんに会ったことがあるかも知れない」
それは、まったく思っても見ないことだった。
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