第159話 師匠②
――師匠が、フィーアの母親。
そう言われた時、俺はなんというか、腑に落ちたような感覚だった。
言われてみれば、そうだ。
というか。
どうして思い至らなかったんだ?
というか。
「お、お、お、お母様がハイムくんの師匠――――!?」
むしろ驚いているのは、フィーアの方だろう。
思ってもみなかった、というか。
想像もしていなかった、というか。
「フィーア、むしろ君こそ知っているべきだろう。君の母君はアインヘリア傭兵団の出身なんだぞ?」
「……そ、そういえばそうだ! すっかり忘れてたよ!」
アインヘリア傭兵団から、王国の将兵に出世した女傑。
それこそがアストラ、フィーアの母親。
「だ、だって私が物心ついたころには、お母様はもう騎士団のトップだったんだもん!」
「平民としての母親に、印象がなかったということか。……まぁ、そういうこともあるか」
「ううー、お母様には言わないでね」
そう言って頼み込むフィーア。
ふと、王太子殿下と視線があった。
殿下は視線が物語っている。
”いや、たぶん言わずとも向こうは、自分の出身を忘れられていると気付いているぞ――”、と。
それを読み取れたのは、俺も同じことを思っているからだ。
ともあれ。
「我ながら、それだけ優秀な師に扱かれていたら、殿下に勝てるくらい強くなれるのも納得というか……むしろ、それだけ扱かれても剣の腕自体は平凡なことが残念というか」
「確かに才能という面で考えれば、君は平凡だが……その剣は、間違いなく彼女の弟子だよ」
「お母様の剣、えげつないもんねぇ。……っていうか、ハイムくんに才能があれば、私ももっと早くお母様の弟子だって気付けたのに!」
無茶を言うなよ!
たぶん、剣の才能があれば学んだ人間から、ある程度剣筋というのが似るのだろう。
俺は本当に、剣に関しては凡人だから、筋が似るほど上達できなかったのだ。
戦っていて感じたが、フィーアの剣と殿下の剣は似ているからな。
……そう考えると、フィーアが師匠から剣を学ばなくてよかった。
我ながら、戦い方がダーティすぎだろ。
「とにかく。君があの人の弟子だという話は朗報だった。その事を喧伝すれば、多少なりとも騎士団の中で君に箔が付くだろう、ハイム」
「……まぁ、言われてみればそうかもしれませんね」
なぜか、俺が師匠の弟子だと騎士団の人に伝えたら、ドン引きされそうな未来が見える。
まぁ何にせよ、未来のことは今はいいだろう。
殿下が、俺に手を差し出した。
「――君の勝ちだ。おめでとう、ハイム」
「……ありがとうございます、殿下」
かくして、決闘は俺の勝利で幕を閉じた。
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