第158話 師匠①

「そ、そこまで! 勝者、ハイムくん!」


 フィーアが決着を告げる。

 俺も殿下も、激戦のためか肩で息をしていた。

 本来なら、殿下はこの程度の戦闘で息切れをすることはないのだが。

 身体強化魔術を使っていないせいで、素の身体能力で戦うしかないからだろう。

 マナを取り入れた呼吸法も、聞いているだけで疲れてきそうな戦い方だ。


「…………はぁ、勝った」


 俺も、そう言葉を零すしかない状態で、剣を杖にして立っている。

 身体強化魔術を使うと心肺機能も強化される。

 だから、普通ならこんな風に疲れることはないのだが。

 俺の場合は、精神的な疲労というのが理由として大きい。

 意識を集中させることは疲れる。

 何より、という意志は、抱くだけでも疲れるものなのだ。

 たとえ決闘術式によって、命の保証がされていると理解っていたとしても。


「つつ……流石に身体強化魔術された剣を手で受け止めるのは、無茶だったな……」

「し、失礼しました!」


 そういいながら、殿下は俺の剣を受け止めた手を振るっている。

 王太子殿下の腕に剣を全力でぶつけるとか、そうするしかなかったとはいえとんでもない話だ。

 流石に、俺も肝を冷やす。


「いや、問題ない。威力がありすぎたおかげで決闘術式の効果が適応された。少し腕が痺れる程度だよ」

「むしろ効果が適応されたということは、本来なら致命傷ってことのような……」


 フィーアの、呆れたような視線が痛い。

 実戦だったら、間違いなく腕をダメにしているレベルの一撃だった。

 治療魔術でもとに戻せるとは言え、ここにいる人間以外に観戦者がいたら卒倒モノだろう。

 正直、俺も卒倒しそうだ。


「ええと……俺、私は……」

「いや、いいハイム。君の本気は剣をぶつけることで理解している。むしろ、そこまでの意志を私にぶつけてくれたことを、感謝したいくらいだ」

「……ありがとうございます」

「そのうえで一つ聞きたいのだが……ハイム、君はあのを、どこで身につけた?」


 殺意。

 人を殺すという意志。

 疑問に持つのも当然だろう、アレでは俺が、誰かを殺したことがあるかのようだ。

 ただ、実際は逆だ。


「ええと、学びました」

「殺意を? 他人から向けられることで? ……相変わらず、あの人はスパルタだな」

「……? 殿下、あの人というのは?」


 おそらく、師匠のことだろうというのは解る。

 俺に殺意を向けて、それを学ばせたのは師匠だからだ。

 しかし、殿下は師匠のことを知っているのだろうか。

 フィーアと目を合わせる。

 お互いに、良く理解っていないようでフィーアも首を傾げていた。


「君の師匠を、私は知っている」

「……本当ですか?」


 ああ、と殿下は頷き――



「将姫アストラ、フィーアの母親であり、私の上司。彼女こそが君の師匠で間違いない」



 そう、告げた。

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