第152話 騎士④
大きく吹っ飛んだ俺は、なんとか体制を立て直して起き上がる。
これだけ距離を取れば殿下の追撃はない。
木剣を杖にしながら、なんとか立ち上がる。
「ちょ、ちょっとハイムくん! 大丈夫なの!?」
「フィーア、まだ決闘は終わってない!」
こちらに近づいてこようとするフィーアを押し止める。
彼女は、俺が剣を受けて吹き飛ばされたことで決闘に敗北したと判断したのだろう。
無理もない、普通のルールなら確かに今の一撃で俺は負けている。
だが、今回に限ってはそうではない。
「……まさか、そういう抜け穴があるとは」
殿下が目を丸くしている。
おそらく、俺があえて剣を後ろに引いて一撃を受けた時に気がついたのだろう。
俺が提示した抜け穴を。
「ど、どういうことなの?」
「いいかフィーア、今回の決闘の敗北条件は――」
「えーと、剣を手放すか喪失する……破壊されるってことだよね。後は降参した場合…………それだけ?」
そうだ、と頷く。
この条件には、ある一文が含まれていない。
本来なら、軽くであるが申し添えておくべき一分が。
「ああそうだ。この決闘は剣を落とすか喪失しないと敗北しない。さっきみたいに致命的な一撃を受けても、それは敗北条件には当たらないんだ」
この条件、普通ならここに気絶や致命傷などの条件も含まれる。
あえて俺がいれなかったのだ。
この状況を想定して。
「……前々から思ってたけど、ハイムくんの戦い方って色々とずるっこだよね」
「ダーティと言ってくれ。いや、ダーティじゃなくてもいいけど、表現が可愛らしすぎる」
「ふーんだ」
勝つためにはこうするしかなかったのだが、さすがに色々やりすぎてしまったせいでフィーアが拗ねてしまった。
後で食事を奢って機嫌を取ることにしよう。
ともあれ――
「しかし、私も君の戦い方は決闘というにはあまりにも無法だと思うよ」
「それはまぁ……そもそもこの決闘は、正式なものではないですし」
「ふむ、というよりも……」
殿下は、無法だと俺に対して言うものの、そこまで気にしている様子はない。
こういう戦い方もありだろう、という考えなのだろうが。
同時に、何かを意識している様子でもある。
「……既視感がある」
「どういうこと?」
「ハイム、君はこの戦い方を、一体誰に学んだんだ?」
その言葉に、俺はある一人の女性のことを思い出す。
俺に剣を教えてくれたくせに、名前すら名乗らなかった故郷の同輩。
つまるところ。
「……師匠、ですね」
「師匠か……なぁ、ハイム。私は君の言う師匠の戦い方を、知っている気がするんだ」
知っている。
なぜかその言葉に、俺もまたある種の納得を覚える。
どうしてだろう、それを聞いた俺は腑に落ちたのだ。
あまりにも、はっきりと理解できてしまった。
その考えが――正しいということを。
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