第151話 騎士③

 速度による戦いに切り替えたとは言え、俺のアドバンテージは身体能力だけだ。

 正面から剣を打ち合って、”膠着”したらそれも無意味になる。

 先ほどは完全な力と力のぶつけ合いだったから、向こうも踏み込んだ一手は打てなかった。

 後、こちらが身体強化魔術を使っているかの確認も向こうはしたかっただろうし。


 だが、ここからは違う。

 一手間違えれば、即座に向こうがペースを握ってしまう。

 あらゆる行動が即詰みの危険性をはらんだ、綱渡りの戦闘になるだろう。


 だからだろう。

 端的に言うと、俺は攻めあぐねていた。


「どうしたどうした、剣が全く私を狙っていないぞ」

「……っく!」


 飛びかかり振るった剣を弾かれ、攻めきれず距離を取る。

 一度距離を取ってから、緩急をつけてもう一度突っ込む。

 振るった剣は浅く、殿下はそれを弾くだけでいい。

 だが、ここから更にもう一歩踏み込めば、間違いなく負ける。

 素人目でもそれが理解ってしまうから、踏み込めない。


 そんなことが、何度も続く。

 殿下の言う通り、俺は全く殿下を狙えないでいた。

 身体能力ではこちらが圧倒しているから、こうしていれば負けることはないものの。

 それでも、有効打には程遠い一撃しか加えることができない。

 千日手……と呼べればまだいいほうで。

 この状況。

 優位に立っているのは間違いなく殿下の方だった。


「ふむ……埒が明かないな」

「……!」

「では――こちらから行こう」


 そんな、これみよがしの宣言。

 しかし、だからこそ。

 俺は次の瞬間、自分の目を疑った。



 殿下は、俺の眼の前に迫っていた。



「……!!」


 ――呼吸。

 こちらの手が緩む状況で、向こうが呼吸を合わせた。

 言ってしまえば、それだけのことだ。

 だが、来ると思っていなかったタイミングでの剣に、俺は剣を合わせることしかできなかった。


「ハイムくん!」


 フィーアが、本格的に不味いと思ったのだろう。

 そこから一気に殿下の連撃がはじまる。

 身体能力で圧倒しているはずなのに、受けるので精一杯。

 どころか、どんどん受けるのが難しくなっていく。

 詰みへの手が、俺にも見えてしまうくらい。

 そして、限界が来た。


「これで仕舞か?」


 躱せない一撃、受け流せない剣。

 詰み。

 その一言が脳裏をよぎる。


「……まだっ!」


 だが、俺はそこで剣を後ろに引く。

 こうすることで、完全な無防備の状態となる。

 そのうえで、まともに殿下の一撃を受けた。


「ハイムくん!?」


 困惑するフィーア。

 ほとんど自爆したようなものだ。

 吹き飛ぶ俺を、悲痛な表情で眺めていた。

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