第150話 騎士②
身体強化魔術の他に、俺がラーゲンディア殿下に勝つための条件がもう一つある。
決闘であることだ。
何せ決闘中は、致命傷が無効化される。
上級身体強化魔術を使って、強化魔術を使わない人間と戦うのだ。
うっかり、相手に一撃いれるだけでも致命傷に繋がりかねない。
これが、お互い身体強化魔術を使っていればそういうことはないのだが。
そして、そういった状況で俺は最初から出し惜しみをしていない。
最も効果の高い上級身体強化魔術を使っている。
使っている……はずだ。
そのはずなのに、どういうわけか俺はラーゲンディア殿下の剣を――弾き返せなかった。
嘘だろ……!? 生身の人間だぞ!?
どれだけ肉体を鍛えたって、身体強化魔術の前ではその差は無いも同然。
普通なら、打ち合わせた時点でこちらが向こうを圧倒するはずなのに。
受け止めることはできる。
だが、返せない。
どうなっているんだ……!?
「――呼吸だよ」
「呼吸?」
「そう、人間には常に呼吸による力の緩急がある。吸っている時は強く、吐いている時は弱くなる波のような緩急が」
一般的に、人間が最も力を込められる瞬間は息を止めている瞬間だ。
呼吸は止まっている状態を頂点に、吸うことで上がり、吐くことで下がる。
その繰り返しが常にある。
殿下はそう言いたいのだろうが。
それはあくまで技術の話であって、正面から身体強化魔術を使った相手と剣をぶつけ合える理屈にはならない。
いや――
「……マナ」
「さすが特待生、察しが良い。そう、私は呼吸のたびにマナを体に取り込んでいる。マナは力の源だ。魔術を使っていなくても、体の中にあるだけで効果がある」
なるほど。
それを踏まえて分析すれば、自ずと理屈は見えてくる。
殿下は、俺が息を吸うのと全く同じタイミングで息を吸い、体にマナを取り込んでいる。
もっとも体に力が入るタイミングだけ、自身のパワーを最大限発揮できるように。
とんだ化け物だ。
マナを体に取り込む技術は、魔術師由来のものではない。
剣士として彼が身につけた、究極の技巧だ。
この技術の素晴らしい点は、身体強化魔術以外の方法で身体を強化できること。
もしも身体強化魔術と一緒に使っていれば、その効果は相乗するだろう。
全く持って、俺はとんでもない相手と戦っている。
――それでも、今のルールなら勝機はある。
殿下が全力を出せるのは、息を吸うほんの一瞬。
俺はそれと同等かそれ以上の出力を常に発揮できる。
なら、戦い方は正面からの激突ではなく、スピードによる撹乱が最適。
故に、俺はぶつけ合っていた剣を逸らす。
そのまま高速で殿下に斬りかかり、切り合いが始まった。
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