第149話 騎士①(他者視点)

 フィーアは、固唾をのんで決闘の様子を見守っていた。

 そもそも、彼女にしてみればどうしてこの決闘が始まったのかイマイチピンと来ていないところがある。

 何せ、別にわざわざお兄様――ラーゲンディアがハイムの実力を確かめる必要があるとは思えないのだ。

 ハイムが強いのは当然で、その上で一つ上の世代であるラーゲンディアにはまだ実力が追いついていないのは自然なこと。


 戦う前から理解っているのだ、この戦いはラーゲンディアが勝つ。

 仮に、兄が自分とハイムの関係を強硬的に認めないなら、まだ解る。

 だが兄は明らかに自分とハイムの関係をある程度認めている。

 そのうえで、決闘でハイムを試そうとしているのだ。

 その意図が、いまいちフィーアには理解らなかった。

 このあたりは男の意地というやつが関わってくる分なので、フィーアがわからないのも無理はないが。


 とはいえ、問題はハイムの方だ。

 なぜ、寄りにもよって強化魔術なしの模擬戦を決闘のルールに選んだのだ?

 正直に言えば、むしろ剣の使用を禁止した魔術戦の方がよっぽど勝率が高いように思える。

 実際には、剣の使用を禁止したところで近接戦は禁止されていないから、最終的に距離を詰められてハイムが負けるのだが。

 移動禁止にすると、そもそも決着がつかなくなるので論外である。


 そして――


「……」

「……」


 ――う、動かない!

 フィーアは思わず心のなかで突っ込んでいた。

 先ほどから、ハイムとラーゲンディアは一切動きを見せていない。

 そのまますでに一分が経過している。

 とはいえ、ハイムにしてみれば正面から切り込んでも勝ち目などあるわけない。

 ラーゲンディアが踏み込まない限り、状況はずっとこのままだろう。


 じれったい空気の中――ラーゲンディアが眼を見開き、ついにハイムへ切りかかった。

 ――速い。

 あまりにも速いその一撃は、フィーアですら対応するのがギリギリだ。

 そのうえで、ラーゲンディアの剣は膂力があるフィーアより更に思い。

 フィーアの剣で腕を痺れさせていたハイムが、受けれるわけがない。

 思わず、視線をそらそうとして、しかし――



 ハイムは、それを受け止めた。



「……はい?」


 思わず、首を傾げる。

 ありえない。

 ハイムの膂力はあくまで人並みだ。

 兄の剣を正面から受け止めることはできない。

 そう考えて、ふとフィーアはあることに思い至った。



 そうだ、



「……それって反則じゃん!?」


 思わず叫んでいた。

 というか、正面から剣をぶつけている兄のほうが、ハイムがこっそり身体強化魔術を使っていると身にしみて解るはずだ。

 けれども、ラーゲンディアはそれを指摘しようとしない。

 どころか、


「反則? フィーアは何を言っているんだ?」

「へ?」

使よな?」

「…………」


 ――お兄様、理解ってやってるじゃん!

 魔術は使えば解る。

 だから、使ってもわからない魔術は使ったという証拠がない。

 ハイムがどれだけズルをしようと、誰もそれを判別することはできないのだ。


「ハイムくんが、このルールを選んだのはそういうことかぁ……」


 反則すれすれどころか、反則というハードルの下を潜って通り抜けるような行為だが。

 間違いなく、このルールはハイムがラーゲンディアに対し唯一勝つことができる可能性のあるルールだった。

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