第137話 騎士団③

 案の定、学園は騎士団の視察……というより、王太子殿下と黒鷹殿の視察の話題で持ち切りだった。

 道ゆく先々で二人の名前が聞こえてくるし、何よりクラスに俺たちが入っても構わずクラスメイトが二人の話をしているくらいだ。

 俺とフィーアのことなんて気にならないくらい、王太子殿下たちは注目の的というわけだ。


 まぁ、その方が俺としてもありがたいわけだけど。

 このまま俺たちのことなんて、空気みたいなものと思ってクラスメイトが日常を送ってくれないかなぁとも思った。

 まぁ、無理な話なんだけど。


「んー、騎士団の人たちも実際に歩き回ってるし、息苦しいなぁ」

「まぁ一日だけだろ、今日を乗り切ればそれでいいじゃないか」


 これがフィーアでなければ、今日は必修以外の講義を自主休講するなんて手もある。

 だが、流石に身分を隠しているとはいえ、王女がサボるわけにもいかない。

 俺もそんなフィーアと付き合っている身の上、不真面目な態度は取れないので息苦しい中でも講義を受けているわけだ。


「というか、思ったより学生が講義を受けてるな。もう少し、サボるやつ多いかと思ったんだけど」

「ここは貴族の学園だからねぇ。将来の行き先が騎士団だったり、騎士団に身内がいる人もいるから、そういう人はサボれないよ」

「んで、そういうのは案外結構いるってことか」


 何とも結構なことで。

 大変だなぁ、とは思うものの。

 そう考えるとどうなんだろう。

 俺は特待生、特別な立場ではあるが騎士団と繋がりなんてない。

 これが普通の特待生なら、騎士団に関わることなんてないだろうし、無視してもいいんだろうな。


「……俺の場合はそうもいかないよな」

「それって、私と付き合ってる以外の話?」

「そうそう、だって騎士団には、アインへリア傭兵団出身の人もいるんだから」


 あー、とフィーアが納得する。

 俺も身内が騎士団に所属してるタイプの人間だった。

 とはいえ、基本的に平民は騎士団の中でも下っ端にしかいないから、そうそう気にするものでもないのだけど。


「というか、多分これまでにすれ違ってる可能性はあるな……」

「大変、挨拶しなきゃじゃん」

「いや無理、歳が離れすぎてて面識すらないと思う。誰が傭兵団出身かなんてさっぱりだ」


 そしてそれは、向こうからしても同じだろう。


「……ん? 傭兵団って確か、昔騎士団で偉い人を輩出したんだよね?」

「ああ、俺は興味ないから詳しくは知らないけど」


 何せ、騎士団に所属するってことは剣士畑の人間だからな

 俺と関わりが薄い。


「それって……」


 フィーアが、なにか疑問を口にしようとしたその時だった。


「フィーア、ハイム。おはようございますデス」


 不意に、廊下の向こうからやってきたカミア皇女に話しかけられた。

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