6.騎士

第135話 騎士団①

 学園に登校すると、まだ朝早いにもかかわらず何やら騒がしい気配を感じた。

 学生が早くから登校しているのではない。

 学生以外の誰かが、学園の外からやってきているのだ。


「今日、何かあったか?」

「あー、確か母様の騎士団が、学園を視察しにくるんだったかな?」

「え? フィーアの母親が直接?」

「お母様は……確か、今日は来ないって話だった気がするけど」


 あの人サプライズとか好きだから、本当は来るのに来ないって言ってる可能性もあるけど。

 とのこと。

 なんか、いつ帰ってくるか頑なに教えようとしないうちの師匠みたいだな。


「視察っていうと……剣術クラブか?」

「夏の学内対抗戦が近いから、その関係だったと思う」

「なんだかんだ、アレもでかいイベントらしいからなぁ」


 俺はまだ一年で、王都にやってきてからそこまで経っていないから伝聞でしか知らないが。

 学内対抗戦、なんでも王都の闘技場で行われるそれは、一般人にも開放されているビッグイベントらしい。

 まぁ、そうでなくとも学内対抗戦に選手として俺もフィーアも参加する可能性がある。

 そうなったら、無関係ではいられないし、関心は持っておくべきだな。


「とりあえず、俺達に直接関係あるかは微妙だし、いつも通りにしておくか」

「そうだねー。それに、視察は午後が本番らしいから、今いるのは部下の人だけだろうし」


 道を歩いていると、甲冑を着込んだ人たちと行き交う。

 元気に挨拶するフィーアの横で、軽く挨拶をしつつ。

 普段とは違う学園の雰囲気を感じる。


「んー、視察だけが目的だとしたら、少し剣呑に感じるな」

「そうだね、少しピリピリしてたよ、さっきすれ違った騎士の人」


 だが、そんな雰囲気の中に、少し毛色の違うものを見つける。

 剣呑な空気、ただ視察するだけならこうはならないだろうという。

 そういう気配だ。

 なんだろうな? 何が原因なのだろう。


「ちょっと聞いてみる?」

「迷惑にならないか?」

「直接聞くのが迷惑なら、先生に聞こう。どうせ、的の掃除が終わったら報告しなきゃいけないわけだし」


 それもそうだな、と頷く。

 まずは自分のするべきことをしよう。

 と、気持ちを切り替えて。


「あー、騎士たちが剣呑な理由か?」


 報告するのは、剣術クラブの顧問でもある教師だった。

 そんな彼に、今の空気の理由を聞いてみる。


「幾つかあると思うんだが、俺が聞いてるのは一つだけだな」

「というと?」


 教師は、少し視線を周囲に向けてから、ひそひそと俺達に打ち明けた。



「今日の視察、なんと赤獅子殿下と黒鷹殿が来るらしいんだ」



 この国の、実質的な次代のトップである二人が、わざわざ学園に。

 何やら、色々と事件の予感を感じさせる内容だった。

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