第134話 自宅③

 というわけで、できたのは目玉焼きだった。

 ハムが一緒に添えられている。

 中身は……半熟のようだ。

 個人的に、黄身の焼き方にはそこまでこだわりがないので、半熟も大歓迎だ。


 それはそれとして。


「違うんです……聞いて下さい……」

「いや、別に怒ってないから……」


 フィーアは、部屋の隅で正座をして小さくなっていた。

 気持ちはわかる、気持ちはわかるが落ち着いてほしい。

 いや、なんであの短い時間で犯行に及ぼうとしたかはわからないが。

 もうちょっとこう、余裕を持って変態行為に勤しむべきでは?


「この度は大変もうしわけなく……」

「なんかこう、これはこれで見てるのも楽しくなってきたな……」

「ひどくない!?」


 あ、戻った。

 それはそれとして、俺はパンの上に焼けた目玉焼きを乗せて食べようとしていた。

 このまま正気に戻らなかったら、パンを食べながら小さくなるフィーアを鑑賞することになっていたな。


「ハイムくんが冷たい!」

「冷たくなるようなことをしたのは、どなただったか」

「はうっ」


 まぁ、それに関してはからかってるだけなのだが。

 とはいえ、申し訳無さそうにしているフィーアを見ると、何かしら声をかけなくてはいけないなと思う。


「まぁ、そうだな……」

「うう……お許しを……」

「これが、全く知らない赤の他人ならともかく、付き合ってる恋人がやったことだ。むしろ可愛いくらいじゃないか」

「え……?」


 いや、まぁそれはそれでどうかと思うが。

 単純に俺がこれを気にしないのは、相手がフィーアだからなというのが殆どだ。

 そもそも、他に俺の衣服から匂いを嗅ごうとする奴なんていないだろうけど。


「それじゃあダメか?」

「…………あう」

「今度はどうした」

「そう言われると、途端に恥ずかしくなってきて……」


 そこで恥ずかしさではなく、申し訳無さがが勝つ辺りが実にフィーアって感じだ。

 そういうところを、俺は可愛いと思うわけだけど。


「とりあえず、まずは夕飯を食べよう。今日はこの後、雑用があるんだろ?」

「……うん、いつも通り的の掃除」

「アレ多いよな、皆的をゴミにし過ぎだろ」

「私も結構ゴミにするし……」


 毎日だれかしら実技で的を壊しているのだ。

 数日置いておけば、的の掃除が必要になる。

 気を取り直して、今日も雑用を頑張ろう……というところで。

 フィーアも冷静になったようだ。


 二人で、朝食をいただくことにした。


「……うん、色々あったけど。やっぱり美味しいね目玉焼き」

「素朴な味ってやつだな」


 朝食事態は、和やかに終わらせることができたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る