第133話 自宅②

「こんなものを持ってきましたー!」


 ふと、フィーアがカバンからあるものを取り出す。

 エプロンだ、一般家庭で使われるごくごく普通なもの。

 どこから持ってきたのだろう。


「母様のお下がりだよ、自分で作ったんだって」

「なるほどなぁ……ちなみにこのマークはなんだ?」


 意気揚々とエプロンを身につけるフィーア。

 学生服の上にエプロン、何ともロマン溢れる格好だ。

 それはそれとして、エプロンの下の方に変なマークがある。

 なんだろう、見覚えがあるはずなのだが。

 本人が作ったということは、何かしらの意図があって作られたマークだが、作っている最中に形が崩れてしまったのだろう。

 手先が不器用だったのだろうか。

 いや、凄腕の剣士なんだし、剣以外のことが苦手なんだろう。


「私も、どこかで見たはずなんだけどね、それもここ最近。母様こういうの苦手だからなぁ」

「フィーアの要領の良さは、父親譲りなんだろうな」

「うーん、ひどいことを言われているのに言い返せない」


 色々、思い当たる節があるのだろう。

 フィーアはお手上げと言わんばかりに肩を竦めた。

 んで、エプロンをつけたということは、だ。


「朝食を作ります! 食材はあるかー!」

「残り物くらいじゃないかなぁ」

「問題ないよー、作ったという事実が大事なのだ」


 フィーアは彼氏の自室で料理をするというシチュエーションに意義を見出しているんだろう。

 冷凍保存用の魔導ボックスを開いて、中を物色し始める。


「うおー、本当に余り物しかない! ハイムくん料理とかは……?」

「その日食べる分をその日買ってきて、その日のうちに。簡単なものしか作らないからな」

「うーん、男の子。……あ、ハムと卵があるじゃん! 勝ったな……」


 どうやら勝利したらしい。

 ともあれ、その二つでできるものは概ね想像がつく。

 フィーアもすっかり料理する気で色々と準備を始めているし――


「じゃあ、悪いが少し汗を流させてくれ。このまま学校に行くのも少しな」

「はいはーい、いってらっしゃいませー。んふふ、私の料理をお楽しみに」

「どう考えても目玉焼きだろ……」


 なんてやり取りをしつつ、シャワーを浴びる。

 自分で水魔術を使わなくて良いあたり、都会ってのは楽でいいよな。

 そう考えつつ、適当に汗を流して外に出る。

 時間をかけるものでもないからな。


 で、外に出ると――



 ――フィーアが、俺の服の匂いを嗅いでいた。



「ヒャアー」


 この光景、何か既視感があるな。

 そうだ、フィーアがステラフィア皇女だと初めて知ったときだ。

 ……まぁ、とりあえず料理はできたみたいなので、いただくことにしよう。

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