第132話 自室①

 で、俺は修練を自分が住んでいる寮の裏手でやっている。

 終わった後にシャワーを浴びたいからな。

 汗かいたまま登校はしたくない。


 すると、今のフィーアは俺の自室の直ぐ側にいるわけだ。


「自室に案内するがよーい!」

「暴君だなぁ」

「勅命であるぞー」


 王女としての勅命で命じられたら、断ることはできない。

 まぁ、そうでなくたって別に断るつもりもないのだが。


「そういえば、ここってフィーアの通学路からは少し逸れてるよな? いいのか、一人で来て」

「ハイムくんが近くにいるならいいって、確認してきたよ」

「そういうところはしっかりしているなぁ」


 ……それはそれで、俺の自室に行くと宣言しているようなものな気がする。

 まぁ、深いことは気にしないようにしよう。

 あまり気にしすぎると、少し怖い。


「んじゃ、ここが俺の自室だ」

「お、おじゃましましゅ……」


 さっきまで偉そうだったのに、一気に顔を真赤にさせている。

 そこまで恥ずかしがるなら、やめておけば良いものを。

 やると決めたら、やらないと気がすまないフィーアの悲しき性か。


 俺の自室は、主に教員向けの寮にある。

 教員の中には平民もいるので、そういった者向けに寮がある。

 特待生だから家賃はタダ。

 立地も、周辺の店の配置も最高。

 王都でここより恵まれたアパートがあるとは思えない。


「はー、ハイムくんの自室だぁ」

「といっても、何も面白いものはないけどな」


 俺の部屋は、自分で言うのも何だが何も面白くない。

 家具と調度品は最低限、そもそも私物が少ないので部屋がゴミだらけになることもない。

 あるのは生活のためのベッドと机、そして――


「うわ、凄い本の山……これ全部ハイムくんの?」

「ああ、借りてきた本は全部そっち本棚に入れてあるからな」

「本棚もいっぱいになってるじゃん!」


 本の山。

 そう、山としか言えない部屋の一角を占拠した本たちだ。

 地面へ直に山積みになっている。

 下手するとフィーアの身長くらいあるな。


 んで、それとは別に本棚へは図書館から借りてきた本を置いてある。

 これまた大量に借りているので、本棚はパンパンだ。

 とはいえこちらは、きちんと本棚に収めている分マシだと思う。


「一応、分類分けはしてあるぞ。こっちが魔術本、こっちが娯楽小説、こっちがそれ以外」

「うわ、7対2対1くらいだぁ。……そう考えると、結構娯楽小説好きなんだね、ハイムくん」

「師匠が昔、大量に押し付けてきてなぁ。読んでるうちにハマってしまった」

「ハイムくんのお師匠さんかぁ……どんな人なんだろうな」


 まぁ、変わった人だよ。

 ともあれ、俺の自室にはじめてフィーアがやってきた。

 変な空気にはならなかったが。

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