第131話 身体強化
俺は、朝に鍛錬をしている。
といっても本当に簡単なもので、剣術を磨くというよりは身体を鈍らせないことが目的のものだ。
何せ、人間っていうのは一日運動しないとそれだけで身体能力が落ちていく厄介な生物。
剣の腕を維持するなら、この程度の鍛錬では全く足りないというくらい。
難儀な話だ。
で、具体的に何をやっているかというと、身体強化を用いた素振りだ。
俺は戦闘の中で、感覚のままに剣を振るう才能がない。
いちいち次の一手を思考して、行動に移さないと有効な剣筋を振るえないのだ。
もちろん、そんなことでは試合でまともな剣を振るうことは不可能。
そこで、有効なのが身体に剣を覚えさせること。
すなわち、型の反復だ。
そういうことは、俺の得意分野である。
何せ魔術の研究と変わらない。
魔術を覚えるという行為は、反復が基本だ。
何せ魔術とは一つの理論、数式。
覚え、発動し、コントロールすることによって習得となる。
同じことを、剣の型で繰り返せば良い。
まぁ、だからといって実践的な感覚が身につくわけではないし、実戦ではより磨き上げられた技量の相手に為すすべなく敗北するしかないのだが。
それでも、これが俺を剣士として最低限成立させる力だ。
日々の鍛錬で、強みを伸ばすのは当然のことと言えた。
んで、無心のままに剣を振るって型を身体に染み込ませていると――
「んふぅ、精が出ますのう」
なにやら、変な言葉を発するフィーアが、こちらを身ていた。
「うお、どうしたフィーア」
「ハイムくんの、鍛錬が、見たかった!」
「欲望がだだ漏れている……」
ニヤケ面のフィーアが、満足そうにむほほと叫ぶ。
これはあれだ、変態行為というやつだ。
俺はフィーアにセクハラをされているのか?
まぁ、フィーアならいいか。
「見てて面白いものじゃないだろ。普通の鍛錬だぞ?」
「まぁ、そうだね。本当に基礎の基礎を、愚直に繰り返し続けてる」
「悪かったな」
「かっこいいな、って思ってるんだよ?」
まぁ、ちょっと変態的なところを除けば、フィーアが満足そうにしてるのはいいことなんだが。
「でも、一つ不思議なことがあります」
「何だ?」
「今、身体強化魔術使ってるよね?」
「ああ」
「身体光ってないけど、どういうこと?」
あー、と納得する。
そういえば前に、そのことをフィーアが気にしてたけど、答えられなかったんだよな。
「意図的に光らないよう制御してるんだ」
「……すると、どうなる?」
「相手には、身体強化を使ってることがわからない。奇襲に使えるってことだな」
「はえー、すごい」
といっても、制御が難しいので今のところ使えるのは上級の身体強化までだが。
これを制御することが、魔術の修練にもなるわけだから、一石二鳥だな。
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