第130話 カミア②
「なるほど、フィーアは先に帰ったのデスね」
「ええ、そんなところで」
「全く、彼女はきちんとエスコートしなくてはだめデスよ?」
「そこは……家庭の事情なので何とも」
よっぽど急いでいたから、途中まで一緒にと言っても断られていただろう。
まぁそこら辺はそれなりに付き合いのあるらしい皇女も理解っているようだ。
やれやれデスね、と先に帰ったフィーアへ嘆息していた。
「あの子はとても奔放で、貴族とは思えないほど人懐っこいデス」
「まぁ、すごく人が良いとは思いますよ」
「警戒心がなさすぎデス。そこが可愛いところなのデスが、自分の身の上をきちんと理解して欲しいデス」
「ははは……」
と、愛想笑いをしつつ。
なんか、少し言い方に違和感があるな?
「デスが……彼女の剣は素晴らしい剣デス。……知っていマスか? アタシ、同年代に初めて剣で負けたのは、あの子だったんデスよ?」
「それはまた……」
皇女は、本当に天才なのだろう。
同年代に自分と同じレベルの相手がおらず、大人とばかり稽古をして。
なんとなく、そのことで周囲との壁を感じたり。
そういうことがあったりしたのだろうな。
……俺も、彼女と同じ立場だからよくわかる。
カミア皇女の剣に対する姿勢は、そういう経験をしたことが感じられた。
そんな皇女に、剣で勝ったことがあるフィーアもまた、優秀である。
今でこそ皇女が剣の腕で一歩上を行くが……今後の研鑽でそれがひっくり返ることがあるかも知れないな、と思うほどに。
……それはそれとして、相変わらず言葉選びに違和感があるな。
「――ハイム。貴方は特待生とはいえ、平民デス」
「……それが、どうかしましたか?」
「あの子と付き合っていく……その意味は理解していマスか?」
それは――
……なんとなく、カミア皇女が姿を見せた理由を俺は察した。
”フィーアと恋人になる”。
平民と貴族が付き合う、ということなら問題はない。
俺は特待生、平民の中でも特別待遇を受けている身。
その立場を活かして、貴族とつながりを得たり、存在を認められることは可能だろう。
平民が功績を認められ、貴族位を与えられることもあるしな。
だが、それは貴族と平民が付き合う場合だ。
俺の場合は――
「……理解っています。魔術師では彼女と付き合うことが難しいことも」
「なるほど」
「だからこそ、魔術師の剣を仕込んでくれた師匠には、感謝しかない」
「ふふ……わかりマシタ」
そう言って、皇女は笑みを浮かべると俺の横を通り過ぎる。
その瞬間――
「では、ステラフィアを、よろしくお願いしマスね?」
――そう、呼びかけられた。
ああ、やはり。
カミア皇女は、フィーアの正体を知っていたか。
そして、ステラフィアとカミア皇女は面識がある、と。
……とはいえ、フィーアの変身魔法には認識を阻害する効果がある。
つまり、誰かが正体を教えなければ、カミア皇女だって気付くことはないはずだ。
一体、誰がそれを教えたのだろう。
残念ながら、俺はその答えを知る方法がなかった。
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