第122話 剣術クラブ④

 気がつけば、フィーアとカミア皇女の模擬試合は人だかりができるほどになっていた。

 そうなれば見た目が地味な俺は観客の一人になる。

 周囲から漏れ聞こえる話から、この人だかりの訳を探ろう。


 なんでも、フィーアは初めて剣術クラブにやってきたとき、カミア皇女と模擬試合をしたらしい。

 そこでカミア皇女からフィーアはそうで。

 まぁ、最終的にはカミア皇女が勝ち越したそうだけど、それでも一年でカミア皇女から一本取れるのは今に至ってもその時のフィーアだけ。

 話題を集めるのも無理はない話だ。

 フィーアとカミア皇女が、友人関係を築くのも。


「またこうやって、フィーアと剣を交えることができて光栄デス」

「こちらこそ、帝国最高と謳われる剣技、学ばせてもらうから!」


 そうして対峙する二人を見ると、解ることがある。

 フィーアの得物は、ごくごく一般的なロングソードだ。

 俺も、基本的にはロングソードを使う。

 対するカミア皇女は、大ぶりのツーハンデッドソードを扱うらしい。

 本人が小柄なのもあって、下手すると彼女の両手剣は彼女より全長が大きいかも知れない。


「では……いざ、尋常に!」

「行きます!」


 お互いの言葉が合図となり、フィーアが飛び出す。

 フィーアの剣は本人の膂力も相まって、先手を打ってとにかく相手を圧倒する戦い方が得意だ。

 一度でも攻撃を受けてしまったら、受けた剣を持つ手にダメージが入る。

 そこから連打で相手が剣を取り下ろすまで叩き続ける。

 そんな戦い方を得意とする。


 であればカミア皇女は?


「変わりまセンね!」


 皇女は、驚くべきことにその剣を受けたうえで受け流した。

 あまりのパワーに受けた時点でこちらの手が止まってしまう一撃だというのに。

 横から受け流したのではない、敢えて受けてから受け流したのだ。

 本人の膂力もさることながら、相手の呼吸を感じ取り、隙を見抜く技術がないとできない芸当……!


「わわっ! やっぱり、前より強くなって……!」

「今度はこちらの番デス、フィーア!」


 そのまま、皇女は反撃を繰り出す。

 一本気なフィーアの剣とは異なり、緩急織り交ぜた剛と柔の剣。

 どちらが欠けていても、十分一流を名乗れるだろう熟達した練度は、合わさることで神業の域にいたろうとしている。


 なるほどまさに、”帝国最高”。

 これを上回る剣士はいても、これより優れた剣士はそういない。

 とはいえ、今はまだ俺達と同じ十五の身。

 完成はまだ先だろうが――


「うー、まいった!」


 結局、最初の一撃を透かされたフィーアは、その後の反撃を対応することができず。

 模擬試合はカミア皇女の勝利で終わった。

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