第123話 剣術クラブ⑤

「あー! 悔しい!!」

「さすがに、剣に打ち込んでいる身の上で二度も遅れを取るわけには行かないデス」


 体全体で悔しさを顕にするフィーアと、安堵した様子のカミア皇女。

 両者の実力差は、前回の模擬試合から今に至るまでの練磨の差がモロに出ていると言えるだろう。

 フィーアは、剣術だけにかまけているわけにも行かなかったからな。


「でもでも、最初の一発はかなり勢いよくはいったと思ったんだよ」

「……敢えてわざと受けマシタが、受けた瞬間それを後悔しマシタよ」


 言いながら、手を振るってしびれを取るような動作をする皇女。

 端から見ているだけでも、その重さを感じ取れるほどだったが。

 それほどだったか。

 ……午前の講義でやった時、フィーアは加減してくれていたのだなぁ。


「そうデス、フィーア。次は決闘形式でやってみまセンか?」

「決闘ー? ってことは身体強化ありかぁ、それだと私のアドバンテージがなくなるような……」

「まぁ確かにそうデスが、ものは試しということデ」


 決闘形式。

 もしくは実践形式とも言うが。

 基本的に、午前の講義や先ほどのフィーアと皇女の模擬試合はあくまで”模擬”だ。

 一般的に、剣術試合はが普通である。

 これは単純に、剣士は身体強化魔術がなければ魔術師と戦っても勝負にならないのである。

 遠距離から一方的に攻撃できる相手の攻撃を、生身のフィジカルだけで対応するのは無謀も良いところ。


 だから、魔術師ではない剣士も全員身体強化魔術だけは使えるのが普通だ。

 当然、本気の剣術試合も身体強化ありが基本。

 ただそれだと万が一怪我じゃ済まない可能性もある。

 そこで、決闘魔術で致命傷を防いだ状態で戦うのが剣術試合の基本。


 まぁ、そうするとフィーアの言う通りフィーアのアドバンテージがなくなるわけだが。

 それと、問題はそれだけではない。


「皇女、それなんですが……決闘用魔道具が、今在庫を切らしているところでして」

「なんデスと?」


 決闘魔術は、高度な結界魔術だ。

 そりゃ、人を切ったり燃やしても死なないようにするんだから当然のこと。

 基本的に、決闘魔術は専用の魔道具を使う。


「先生は?」

「今は席を外しています」

「うーん、誰か決闘魔術を使える方はいまセンか?」


 まぁ、普通に考えて使える人間はいないだろう。

 決闘魔術は、学園のカリキュラム範囲外だ。

 使えるのは基本的に、学園の教師レベルの魔術師だけ。

 ……まぁ、今回はそのレベルの魔術師がここに一人いるんだけど。


「あ、ハイムくんならできるんじゃないかな?」


 フィーアの何気ない提案。

 彼女の視線につられて、周囲にいた学生の視線が一斉に俺へ向けられた。

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