第116話 剣の講義①

 結局、陛下からは「その件に関しては、問題ないからフィーアと付き合っていると連絡してくれ」と言われた。

 フィーア経由で。


 まぁ、陛下が問題ないというのならいいのだろうが。

 一体どうするつもりなんだろう。


「お父様ってば、真剣に相談したら”何だそんなことか”みたいな反応するんだよ?」

「いいのか? そんなことで済ませて……」


 まぁ、済ませていいなら、いいんだろう。

 ともあれ。


「そういえば、今日は剣の講義だよ、ハイムくん」

「剣かぁ」


 ぶんぶんと、やけに堂に入った素振りをするフィーア。

 王女だから護身術として学んでるのか?

 フィーアは要領がいいから、素振りの型が綺麗なのは納得だ。

 かもしれないが。

 むしろその方が、王女の剣としてはふさわしかろう。


 ともあれ、剣の講義である。

 魔導学園で剣とは……と思うかも知れないが、剣術は重要だ。

 この国は比較的そうではないが、一般的に貴族は儀礼的な剣術を学ぶべしという風潮がある。

 国を背負って立つ身である以上、武勇は最低限必要なもの。

 なにより、有事の際多少の護身術があるだけでもだいぶ違う。


 というわけで、我が国でも魔導学園では一年生のある期間に剣術を学ぶことになっている。

 何も、本気で剣を覚えろというわけではない。

 他国の剣に優れた貴族の武勇が、どう優れているのか理解できればいいのだ。


 言う慣れば、観劇を学ぶのと同じか。

 演劇にはセオリーとか、演出の定番ってやつが存在する。

 それを理解せずにただ劇を見ても、それはただ劇を見ているだけに過ぎない。

 剣舞を”観る”のも同じことだ。


 ともあれ、


「剣はなぁ……苦手意識が」

「ええ? あんなに動けるなら、ハイムくんだって剣術はそれなりに勉強してるでしょ」

「それなりに勉強してるからこそ、だよ。……あと、アレは身体強化魔術を使ったからだ」

「……え? 使ってたの?」


 ちょっと意外そうなフィーア。

 しかし、話を掘り下げようにもそろそろクラスに着く。

 今日はこの憂鬱な気分のまま、講義をうけることになりそうだ。



 で、講義本番。



「ここ最近、我が国では魔術だけでなく剣術も磨くべし、という風潮が強まっていることは知っているな?」

「はい!」

「いい返事だフィーア。なんかテンション高いな? とにかく、その理由は王太子殿下や黒鷹殿、平民でありながら我が国の騎士団の団長にまで上り詰めた将姫アストラ殿が理由として上げられる」


 錚々たる名前が上げられた。

 特に、”赤獅子”とも呼ばれる王太子殿下は、この国随一の剣の天才ともっぱらの噂だ。

 魔導の天才であるフィオルディア陛下の第一王子が、剣の天才というのも不思議な話だが。

 ……そういえば将姫アストラといえば、とフィーアの方を見ようとして、


「ではまず、二人組で模擬試合を行う。読み上げた者同士でペアになるように。……フィーア・カラット! ハイム!」


 ……俺達?

 と、視線を見合わせることになった。

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