第106話 デート⑥

 それから、フィーアは順調に拉麺を平らげた。

 それはもうするすると食べていくもんだから、見ているこっちも気分が良くなるというものだ。

 最終的に、おかわりを欲しそうにそわそわしていたので、追加を頼んだ。

 三杯。


 いやぁ、いっぱい食べるフィーアはいいなぁ。

 つい財布の紐が緩んでしまう。

 まぁ、普段から本にしかお金を使ってないので余ってしまるから問題ないけど。


「……その、大変美味しゅうございました」

「いい食べっぷりだったよ、フィーア」

「ハイムくーん!」


 帰り道、恥ずかしそうにしているフィーアをからかうと、ポカポカと叩かれた。

 ついおかわりをしすぎてしまったという羞恥で、顔は真っ赤になっている。


「まぁまぁ、食べてもらうために頼んだわけだから、むしろ本望といいとうか」

「ううー、もう少し抑えて食べなきゃだめかなぁ」

「それはダメだ。フィーアはいっぱい食べるところがいいんだから」

「なにそれぇ」


 何にしても、そろそろ外も暗くなり始めている。

 帰るにはちょうどいい時間だろう。


「んー、今日は楽しかったなぁ」

「そうだな。バイトの給料が出たらまた来よう」

「うん!」


 なんて話をしつつ、帰路につく。


「そういえば、ハイムくんって拉麺好きなの? あんな美味しい店よくしってたね」

「まぁ、俺の故郷だと割と好きな人が多くてな」

「へぇー、それでハイムくんも好物になった、と」

「そんなところだ」


 こっちに来てすぐ、いろいろな店を回って最終的に行き着いたのがあの店だった。

 昔ながらの店でありながら、流行もきちんと取り入れた名店だ。

 常連に濃い人が多いという欠点というほどではない特徴もあるが。

 そこ含めて、いい店だと胸を張って言える。


「それにしても、なー、うーん」

「どうしたんだ?」

「どーーーーにも引っかかってることがあった」

「と、いうと?」

「既視感っていうのかなぁ」


 既視感といっても、今日フィーアがしたことは多くが彼女の人生において初めてのことだったはずだ。

 庶民の暮らしを垣間見る、王女であるフィーアにそんな機会があるとは思えないのだが。


「あ、そうだ」


 ぽん、と手をたたき。


「私、!」


 そう口にした。

 どうやら、それが既視感の正体だったらしい。


「いや、貴族は拉麺食べないだろ?」

「うん、王城で出たわけじゃなかった……と、思う。でも、どこで食べたんだろう。思い出せないや」


 どうやら、相当昔の記憶らしい。

 まぁ、どっちにしろ今日のフィーアは初めて拉麺を食べたリアクションをしてくれた。

 個人的には、それだけで満足だ。

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