第104話 デート④
その後も、フィーアはいろいろなものを悩んでは諦めていった。
大半は出店の食事なので、別に変なことではないのだが。
形に残るようなものを貴族であるパステルの学生が買っていかないのは、割と変だ。
これが貴族同士だったら、髪色からフィーアが格の低い貴族だと判断して、金が無いのだろうと納得してくれるだろうが。
ともあれ、俺としては悪いことではない。
今後フィーアに贈り物をするときの候補がどんどん溜まっていく。
もちろん、そのままそっくりプレゼント……というわけにはいかないだろうが。
フィーアの好みが解るだけでも収穫だ。
女性が好むものとか、さっぱりだからな俺。
そういえば、フィーアの好みは素朴で可愛らしいもののようだ。
王女として高級なものを見慣れているというのもあるだろうが、純粋にそういったものを好む嗜好でもあるようだ。
なんとなく、イメージ通りである。
「ううーん、きめられないよー!」
しかし、このままでは結局フィーアは何を買うか決められずに終わってしまう。
もちろんウィンドウショッピングというのも買い物の楽しみ方の一つである。
フィーアにとってはどれも新鮮で、見ているだけで楽しいだろう。
今も決められないことを悩んでいるが、アレは嬉しい悲鳴というやつだ。
それはそれとして、彼女を連れ出した俺としては何かしら形に残る思い出が欲しい。
ただ、俺が買った贈り物とかは、フィーアは受け取ってくれないだろう。
だから何かしらの理由を付けて、彼女が受け取りやすいようにしなくてはならない。
少し悩んで――ふと、あることを思いついた。
「そういえば、フィーアは街をふらついたことは当然ないよな」
「? うん、そうだね。初めてのおでかけだよ、えへへ」
「なら――あの楽しみを知らないわけだ」
そう言って、俺は敢えて意地の悪そうな笑みを浮かべた。
その笑みにフィーアも、何かしら俺が面白そうなことを考えていると悟ったんだろう。
「ご、ごくり……わ、私に何をさせるつもりっ。ハイムくんっ!」
「そりゃあ……楽しいことに決まってるだろ?」
ふふふ、と妖しく笑って、俺は大通りから少し外れた場所にフィーアを案内する。
人通りこそあるものの、学生の姿は見受けられない。
そんな通りに、俺はその店があることを知っていた。
バイトの帰りなんかに立ち寄るそこは――
「あ、あそこは何の店なの?」
「決まってる。
拉麺。
一般的に、庶民の料理として知られ貴族の間では好まれていない料理だ。
だからこそ、俺はフィーアにそれを食べてもらうことで――
お姫様に庶民の味を覚えさせてしまうという、よくある悪いシチュエーションを実行しようとしていたのだ。
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