第103話 デート③

 デートは、穏やかな時間が流れる中を進んでいく。


「ハイムくんハイムくん! これ綺麗ーっ!」

「フィーアなら、似合うと思うぞ」


 フィーアが手に取ったのは、花の形を模したブローチ。

 どうやら宝石の類は一切使われていないようで、値段も平民のフィーアくらいの年頃の少女にとって手頃なもの。

 貴族が身につけるものとしては、すこし浮いている感じもあるだろう。

 店番をしている店員も、少し意外そうに俺達の制服を見ている。


 だが、フィーアにとってはこれくらい素朴な方が似合うだろう。

 宝石で着飾るよりも、ありのままのフィーアに添えるような装飾のほうが彼女には向いているはずだ。

 もちろんそれは、フィーアの髪色が貴族らしからぬ茶色で、平凡なものであるというのも大きいだろうが。

 思い返してみれば、ステラフィア王女のマジックフォトも装飾品の類は最低限だったはず。


「えへへー、どうかなどうかな」

「い、いいんじゃないか?」


 胸元にブローチを持ってきて、身につけて見せるフィーア。

 思わず視線を逸らしてしまったのは気恥ずかしいからだ。

 それに気付いたいたずら好きな子供みたいな笑みを浮かべるフィーアが、距離を詰めてくる。

 いや、近い近い。

 周りの視線が痛い。

 何よりの問題は、フィーアがこれに気付いたら自爆するってことだ。


「じゃあ、これにするのか?」

「え? あ、うー……悩む!」


 話題そらしにかかる。

 幸いなことに成功したようで、フィーアはブローチを元あった場所に戻すと腕組みをして悩み始めた。

 かなり真剣に悩んでいるようで、その表情は難しそうだ。

 俺はその間に、こちらを何事かと眺めている店員へ近づいてフィーアに聞こえないよう話しかける。


「彼女は、いろいろな事情であまり多くのものを買えないんだ」

「はぁ……安物のブローチなんですけど」

「そうだな。……彼女が諦めた場合、後日俺からのプレゼントってことで送りたいんだが、取り置きを頼めるだろうか」

「量産品ですし、在庫はありますから大丈夫ですよ。いつ取りに来られますか?」

「そうだな、明日……」


 なんて話をしていると、フィーアが結論を出したらしい。


「……諦めます、ごめんね」


 何だか申し訳無さそうに、ブローチと店員へ謝っている。

 俺と店員は、一瞬視線を合わせて苦笑いをした。


「なら、未練が湧かないうちに次に行こう」

「うん……」


 この調子で行くと、フィーアは最終的に買い物を諦めそうだ。

 先日豪遊してしまったことが原因とはいえ、少し不憫だ。

 何か、考えないとな。

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