第101話 デート①

「だだだだ、だって考えてみてよハイムくん!」

「お、おう」

「彼氏と! 二人で! 街に遊びに行く!」

「うん」

「――デートじゃん!!!!!!!」


 ……デートじゃん!!

 …………デートじゃん!

 ……………………デートじゃん。

 声が、遠くまで響いて消えた。


「言われてみれば、たしかにそうだな」

「ハイムくんはどうしてそんなに冷静なの!?」

「フィーアが冷静じゃないから逆に冷静になっただけだが?」


 というか、フィーアがここまで真っ赤になってなかったら、俺のほうが緊張してるだろ。

 普段のフィーアはもっと積極的で、物怖じしないんだから。


「というか、デートといったらこないだの図書館だってそうだろ」

「あ、アレは……デートって意識してなかったから」

「フィーアの強みは、細かいところを気にしないことだな」

「それ褒めてる!?」


 めっちゃ褒めてる。

 というか、本当にそういうところは憧れる部分だ。

 やると決めたら、とりあえずやってみる。

 バイトにしたってそうだろう、俺だったらダメだと思ってそもそも許可を取ろうとすら思わない。

 ということを、更に要約して伝えた。


「だから、そういうフィーアが俺の隣にいてくれるんだと思うと、俺はとても嬉しく思う」

「……あ、あああ、どうしてこのタイミングでそんなに褒め殺しするの? うう、顔あっつい」


 ただでさえデートで緊張してるところに、正面から褒められたらこうもなろうという感じで、フィーアは真っ赤だ。

 手で顔を抑えて視線を落とす。


「とにかく、街に行くならそこまで長居はできないだろ。バイトが終わる時間までだとしても、数時間しかない」

「そ、そうだ! 急がないと! やりたいことがいっぱいあるのに!」

「具体的には?」

「え? あー、えっと、あー……色々!」


 特にはっきりとした展望があるわけではないみたいだ。

 まぁ、そりゃそうだろう、フィーアにとって平民の街なんて歩いたことすらないんだろうから。

 イメージの中の存在に、具体的な展望を描けというのが無茶である。


 それに――別にデートなんてこれが最初で最後というわけではない。


「まぁ、今日の時間は限られてるけど、別に今日だけでやりたいことをすべてやる必要はないさ」

「それは……うん、そうだね」

「時間をかけて、ちょっとずつやりたいことを消化していけばいいさ」


 まだ、俺達にはたくさんの時間があるんだから。

 学生である期間も、まだ二年以上ある。

 急いで悪いことはないが、急ぎすぎる必要はないんだ。


 そのためにも、俺は陛下から許されたを、全うしなければな。

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