第98話 許可①

 労働の対価を得て数日。

 二人で食べた食事は、ただ出来合いのものを買っただけだと言うのに、普段より美味しくい感じられた。

 アレよりも美味しい料理は、フィーアの手料理くらいではないだろうか。


 とはいえ、フィーアが労働の対価を得ることは早々ない。

 ただでさえ貴族なのに、輪をかけて彼女はお姫様なのだ。

 働いてお金をもらうなんて、一生に一度経験できるかどうか。

 そう考えると、少し惜しかったかもな……と思ってしまう。

 そんな朝、雑用のために早くに学園を訪れた俺の元へ――


「ハイムくーーーーーーーん!」


 フィーアが、嬉しそうな顔で飛び込んできた。

 それはもう、俺が見た中でも一番に喜んでないか、というくらい。

 彼女に尻尾があれば、今頃は大回転していただろうちうくらい。


 とてもうれしそうだった。


「ど、どうしたんだ?」

「きいてきいてきいてーっ!」


 人がいないからか。

 勢いよくフィーアはそのまま俺に抱きついてくる。

 ぐりぐりと頭を擦り付けて、前進で嬉しさをアピールしていた。


「と、とりあえず落ち着いてくれ!」

「きいてーーーーっ!」


 そのまま、抱きついた状態で俺を見上げてきた。

 視線が泳ぐ。

 俺はどこに視線を向ければ言いんだ? どんな風にフィーアと接すればいいんだ?


「許可が出ました!」

「な、なにの?」


 完全に、意識がフィーアに抱きつかれたという事実に持っていかれてしまっている。

 今の俺は冷静じゃない。

 この、言葉にできない感情に、名前をくれ!

 とか、思っていたのだが。



「バイトの許可が、出ました!」



「え!?」


 あまりにも驚きすぎて、ちょっと冷静になった。


「バイトの許可!?」

「そう、バイトの許可! バイトしていいんだって!!」

「いやいやいや、無茶だろ!?」


 お姫様だろ!? 貴族だろ!?

 学園に通うのだって、決まった道以外を歩いちゃいけない決まりになってるんだぞ!?

 あの通学路に、フィーアがバイトできそうな店はない。

 まさか購買に……? いや、購買にわざわざ学生のバイトが必要なほど人手が足りえないってことはないだろう。


「もちろん、条件はあるけどね?」

「その条件って?」

「ハイムくんのバイト先であること、私が外を出歩く時は、常にハイムくんと一緒であること!」


 ――――それは。

 重くね?

 俺に対する、フィーアのバイトを許可した人物の信頼が重い。

 多分、許可を出したのはフィオルディア陛下だろう。

 それ以外に、俺とフィーアのことを知っている人はいないだろうし。

 それにしたって、重い。

 一度も会ったことがないだろう相手に、どうしてそこまで陛下は信頼を置けるんだ――?

 正直、疑問で仕方がなかった。

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