第97話 買い物③

「んー、おいしー!」

「すごい、あれだけあったのに、全部平らげてしまった」


 その後、夕食ということで二人で購買の食事に舌鼓を打つ。

 どれも美味しい料理だったが、フィーアは普段以上の速度でそれをペロッと食べてしまった。

 もうなんというか、手が止まらないといった具合で、普段以上に美味しそうだった。


「全部じゃないよー! アレがあります」

「アレか」

「そう! はやく出してーハイムくん!」


 俺が買ってきた料理の中に混じった、一個のデザート。

 フィーアが最後まで悩んでいて、俺が選んだそれは――クッキーだった。

 1つの袋の中に複数入っていて、二人でわけれる数だ。

 もう一つはわけれないものだったので、こっちが妥当だろうと選んだわけだが。


「クッキークッキーククッキー♪」

「そんなにクッキーが食べたいのか?」

「ハイムくんと二人で食べるのがいいんだよー」


 といいながら、俺が広げた袋に早速手を伸ばすフィーア。

 袋を覗き込みながら、中身を吟味しているようだ。


「んー、これかな?」

「抹茶のクッキーか、そういうのが好みなのか?」

「えーとね」


 少しフィーアは逡巡してから、てにした抹茶クッキーを――


「――あーん?」


 俺に差し出した。

 要するに、俺に食べさせたかったらしい。

 確かに抹茶のクッキーは俺が好む味だが……


「えーと……やらなきゃダメか?」

「ダメだよ!? だってクッキーだよ!? この世すべてのクッキーは、こうするためにあるんだよ!」

「それは言いすぎだろ……」


 ともあれ、こうなったら食べなければフィーアはてこでも動かないだろう。

 覚悟を決めて、差し出されたクッキーを口にする。


「にひひ」


 どこかいたずらっぽい、少しだけ恥ずかしそうなフィーアの笑に見惚れながらも、口に含んだクッキーは……


「……美味しい」

「ほんと!?」

「ああ、抹茶の風味とクッキーの風味が程よく合わさって、俺好みな味だ」

「やったぁ! じゃあじゃあ、私のも選んで?」


 そういって、フィーアは袋を俺の方へ寄せてくる。

 これはもしかしてアレか?

 ……俺にもやれ、ということか?


「んひひ」


 ああ、期待に目を輝かせたフィーアが、こちらを見ている!

 この瞳から、逃げるわけには行かない!

 俺は袋に視線を落とし、その中から1つのクッキーを選ぶ。


「チョコクッキーだぁ!」


 フィーアの場合、彼女の好みはだ、どれを選んでも正解になる。

 だから後は、俺が勇気を持って一歩踏み出すだけ――


「あ、」

「あ?」

「……あーん」


 ――途端。

 目を輝かせまくったフィーアが、こちらに突撃を敢行してきた――

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