第94話 お手伝い⑤

 結局ストラ教授はいそがしかったらしく、報告の完了は別の教師に行うこととなった。

 ストラ教授は、この学校でも最も謎の多い教師だ。

 プライベートのことは、同僚である教師すら知らないらしい。


 そんな教師から、生徒にちょっとした手伝いをさせていて、終わったらコレを渡してくれと白い封筒と共に頼まれたせいか、報告した教師は少し心配そうにしていた。

 なにか真面目な用事を俺達が仰せつかったと思ったらしい。

 まぁ、実際はバイト未満の小遣い稼ぎなのだが。


 ただ、それはそれとして、労働の対価に給金を得るという行為には変わりない。

 自分の分の白い封筒を受け取ったフィーアは、それはもう目を輝かせていた。


「ハイムくんハイムくん! これね! これ! 私のお金!」

「他の人が聞いたら、フィーアを守銭奴か何かと勘違いしそうな発言だな」

「むぅ、ハイムくん、失礼!」


 フィーアがこちらを上目遣いで見ながら、頬を膨らませて怒ってくる。


「悪い悪い」

「ゆるーす」


 胸を張って、偉そうに許すフィーア。

 実際、王女なのだから彼女は偉かった。


「私、自分で労働してお金をもらうって、初めての経験なの」

「貴族ならそれが普通じゃないか?」

「そうかもしれないけど、だからこそ憧れてたんだよ。働くことも、お給金をもらうことも」

「まぁ、そうだろうな」


 フィーアは特に、そういう好奇心は旺盛なタイプだろう。

 俺からしてみれば、労働に意欲を持って望めるのは羨ましい才能だと思うが。


「ふふふ、これを全部私の自由にしていいんだねぇ」

「そうだな……といっても、中身はそんなでもないけど」


 見た感じ、時間に換算すると少し少ないくらいのお金だ。

 本来はもう少し時間がかかっていただろうことを考慮すると、結構少ない。

 ただ、額としてはそれなりに色々なものを買える学だ。

 本当にお小遣いって感じで、まるでフィーアに労働を経験することと、給金を得るという経験をさせることが目的だったかのようだ。

 まぁ、まさかね。


「ねぇねぇハイムくん、これで何を買おっか!」

「といっても今から買いに行くにも、だいぶ遅い時間だしな……」


 早い店だと、そろそろ店仕舞になる店も多いだろう。 

 何より、フィーアが自由に町中を歩けるのは、学園と王城の間と決まっている。

 その間に、なにかいい感じの店があっただろうか。


 しばらく、二人で考えて……視線を合わせる。

 俺達は、どうやら同時に答えへたどり着いたようだ。


「購買だ!」


 フィーアが目を輝かせた。

 灯台下暗し、俺達が買い物をするのに最も適した空間は、学園の中にあった。

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